2021 Fiscal Year Research-status Report
Food and Nature: Reading Raymond Carver's Ecological Fiction and Poetry
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20K00418
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
栗原 武士 県立広島大学, 地域創生学部, 准教授 (00462143)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 現代アメリカ文学 / レイモンド・カーヴァー / 食 / ジャンクフード / 環境文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は、1970から80年代を中心に活躍したアメリカ短編作家レイモンド・カーヴァーの作品における「食」のイメージを包括的に分析し、彼がジャンクフードやフェイクフードに代表される現代的な「食の衰微」に対する批判意識と、それによって逆照射される理想的な自然観および人間と自然との有機的関係性のイメージを作品中で提示していることを明らかにすることである。この試みを通して、本研究は従来ほとんど論じられることのなかった環境文学作家としてのカーヴァーの新しい側面に光を当て、彼の作品理解の新たな可能性を探るものである。 当初、令和3年度にインディアナ大学リリー図書館およびオハイオ州立大学トンプソン図書館所蔵のカーヴァーのオリジナル原稿の閲覧を予定していたが、コロナウィルス感染症の流行のため残念ながら渡米を中止せざるを得なかった。そのため、手元にある資料の再検討とカーヴァーの食に関する作品の考察を深める作業を進め、カーヴァー作品におけるジャンクフードのイメージが主として家庭崩壊や低所得層の精神的な閉塞感と結び付けられていること、及びその反面、自然と密接に結びついた理想的な食のイメージをカーヴァーが主に詩作品において利用していることを指摘する論考「ジャンクからパストラルへ:カーヴァーにおける「食の衰微」とエコロジカルな自然観」を県立広島大学地域創生学部紀要に上梓することができた。 本論考において、カーヴァーが描いた食をとおして彼の自然観が伝統的なアメリカのそれと大枠で重なっていることを指摘することができ、このことで本研究課題のおおまかな方向性は打ち出すことができたと考えている。今後はさらにカーヴァーの短編・詩における食の表象を包括的に分析し、カーヴァー作品における食と自然の結びつきについてさらなる考察を加えていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の2年目に当たる令和3年度は、資料収集と内容の確認、現代の食を描くカーヴァーの作品(詩・短編)や、過去のインタビューの再確認、現代の食、とりわけ工業的な食についての専門家からの問題提起の洗い出しと整理など、文献を用いた作業については概ね順調に進み、上述の通り本研究課題の基幹をなす考察を上梓することができた。コロナウィルス感染症の流行に伴う本務校の業務の増大を考えれば、研究に割くことのできる時間が限られる状況下で上述した論考をまとめることができたことは幸いであった。 ただ、カーヴァーの作品の精密な分析にはインディアナ大学リリー図書館所蔵のカーヴァーのオリジナル原稿を調査し、編集者による改訂の箇所と内容を正確に把握することが必要となる。この点については、令和3年度に予定していた現地調査が新型コロナウイルスの流行に伴う渡航制限等でキャンセルとなってしまい、必要な作業に大幅な遅れが生じることとなった。また、現在進めている作品分析について海外学会等での発表も計画していたが、これも困難な状況となっており、渡米しての研究課題の実施に関しては今後も状況の推移を見守りつつ柔軟に対応していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度にあたる令和4年は、引き続きジャンクフードのイメージによって逆説的に浮かび上がる、カーヴァーにおける理想的な食のあり方を考察することで、彼のエコロジストとしての側面を考察していきたい。上述の論考では彼の短編や詩に描かれるオーガニックな食と自然のサイクルのイメージは、彼が本質的にエコロジストの顔を持つ作家だったことを示すひとつの材料となることを指摘した。今後は昨年度来の研究活動を延長し、カーヴァーの詩を中心に、これまであまり研究が進んでこなかったカーヴァーの食と自然の関連に着目しつつより深い考察を行いたい。今後はこれまで実施できなかったアメリカでの図書館資料の閲覧が可能になることが予想されるため、カーヴァーのオリジナル原稿ならびに私信を詳細に分析し、彼の自然観についての裏付けを行うと同時に、現在実施している研究内容について、国際レイモンド・カーヴァー学会のパネルもしくはその他の適切な発表の場を得て幅広いカーヴァー研究者の意見を募りたいと考えている。現地調査および海外での学会発表に関しては、新型コロナウイルスの流行状況を適宜確認しつつ、必要であれば令和5年度に研究課題遂行を延長することも検討したい。
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Causes of Carryover |
令和3年度にアメリカ・インディアナ大学リリー図書館およびオハイオ州立大学トンプソン図書館所蔵のレイモンド・カーヴァーのオリジナル原稿および私信の閲覧を予定していたが、コロナウィルス感染症の流行のため、海外出張をキャンセルせざるを得なかったため。この作業については令和4年度以降に繰り越す予定である。
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