2022 Fiscal Year Research-status Report
Food and Nature: Reading Raymond Carver's Ecological Fiction and Poetry
Project/Area Number |
20K00418
|
Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
栗原 武士 県立広島大学, 地域創生学部, 准教授 (00462143)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 現代アメリカ文学 / レイモンド・カーヴァー / 食 / ジャンクフード / 環境文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は、1970から80年代を中心に活躍したアメリカ短編作家レイモンド・カーヴァーの作品における「食」のイメージを包括的に分析し、彼がジャンクフードやフェイクフードに代表される現代的な「食の衰微」に対する批判意識と、それによって逆照射される理想的な自然観および人間と自然との有機的関 係性のイメージを作品中で提示していることを明らかにすることである。この試みを通して、本研究は従来ほとんど論じられることのなかった環境文学作家としてのカーヴァーの新しい側面に光を当て、彼の作品理解の新たな可能性を探るものである。 本年度は令和3年度に上梓した論文「ジャンクからパストラルへ:カーヴァーにおける「食の衰微」とエコロジカルな自然観」(『県立広島大学地域創生学部紀要』)で明らかにしたカーヴァーの食のイメージと彼の自然観との関連性を敷衍し、彼の代表作のひとつとされる「ささやかだけれど役に立つこと」に描かれる食のイメージを考察した。手元にあるインディアナ大学リリー図書館での研究メモ(カーヴァーのオリジナル原稿と編集過程についてのもの)と、すでに出版されているカーヴァーの編集前原稿を集めた短編集『ビギナーズ』に収録されている当初原稿との比較をベースに、カーヴァーがポテトチップに代表されるジャンクフードと聖餐の象徴であるパンとの対比を、現代文明社会と、より自然に近い全近代的な生活様式の理想という二項対立に重ね合わせていることを明らかにした。本研究内容はIAFOR International Conference on Arts & Humanities in Hawaiiにおける「The Images of Food in Raymond Carver’s “A Small, Good Thing"」という研究発表にまとめることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題は令和4年度までを一定の区切りとして申請したものであり、当初は最終年度までに2本の論考を適切なメディアで発表することを目標としていた。しかしながら、新型コロナ感染症の流行に起因する渡航制限と、関連する学内業務の負担増加などが原因で、これまで予定を遂行するための十分な研究時間を確保することができなかった。そのため、研究課題の令和5年度までの延長を申請することとなった。 その中でも、令和4年度には国際学会での発表という一つのステップを踏むことができ、令和5年度にはインディアナ大学の資料の閲覧も計画しているため、予定よりも1年遅れで2本目の論考を完成させることができると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度となる令和5年度では、上述した国際学会における発表内容の考察をさらに深め、適切な媒体上での発表ができるように準備をする予定である。具体的には、主として取り上げるカーヴァーの短編「ささやかだけれど役に立つこと」以外の作品にも焦点化できるよう、より広範なカーヴァー作品の分析、とりわけ作家自身の自然観や文明観を明らかにするために彼自身のオリジナル原稿の閲覧と分析が必要であると考えている。このため、令和5年度のできるだけ早い時期にインディアナ大学リリー図書館に収蔵されているカーヴァーの資料の閲覧を行うための渡航を計画している。その上で、現在の研究内容をさらに発展させて論文形式での発表を行う予定である。 「ささやかだけれど役に立つこと」のオリジナル原稿に描かれる牧歌的な生活様式の理想は、冒頭のポテトチップスの朝食という一種グロテスクなイメージによって逆説的に強調されている。このことはカーヴァーが食と育児という人間的営みにどのようなイメージを持っていたかも同時に示唆するものである。令和5年度は本研究課題の枠組みの中でカーヴァーの食と彼の理想的生活様式を関連づけて考察すると同時に、今後のより包括的な作家理解に繋げるため、育児へのスタンスも含めた家族観についても新たな考察を深めていきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
本研究課題開始後に始まった新型コロナ感染症の流行に起因する渡航制限と、関連する学内業務の負担増加などが原因で、これまで予定を遂行するための十分な研究時間を確保することができなかった。そのため、研究課題の令和5年度までの延長を申請することとなった。 本研究課題の遂行のため、令和5年度にはできるだけ早い段階で米国インディアナ大学リリー図書館を訪問し、レイモンド・カーヴァーのオリジナル原稿とその編集過程を確認する作業を行いたいと考えている。
|