2020 Fiscal Year Research-status Report
A Construction of the Semantic Corpus of Speech and Thought Representaion of the MSs of Hg/El and the Editions of the Canterbury Tales
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20K00431
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Research Institution | Fukuyama University |
Principal Investigator |
中尾 佳行 福山大学, 大学教育センター, 教授 (10136153)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
地村 彰之 岡山理科大学, 教育学部, 教授 (00131409)
佐藤 健一 滋賀大学, データサイエンス教育研究センター, 教授 (30284219)
大野 英志 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (80299271)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | チョーサーの話法 / 意味論コーパスの構築 / カンタベリ―物語 / Hengwrt MS / Ellesmere MS / 初期刊本 / スピーチの言語指標 / 語り手の編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
中世英国詩人チョーサー(Geoffrey Chaucer, 1343?-1400)の話法は、彼の言語の意味がどのようにまた何故生み出されていくかを捉える重要かつ有効な手段になると考え、本研究において次の3点を中心に研究を行った。①チョーサーの話法情報を分類し意味付ける指標、タグは、これまでの研究では体系性に欠けており、本研究ではこのタグを語りのマクロ構造(ジャンル、対人関係、談話等)からミクロ構造(統語、語、音等)まで精緻化した。②①のタグをこれまでに作成した『カンタベリー物語』の電子化された4つのパラレルテクスト、Hengwrt (以下、Hg), Elllesmere (以下、El)写本及び刊本(Blake (1980)、Benson (1987)において、General Prologue、Knight's Tale、The Tale of Sir Thopasに付加し、話法の意味論コーパスを構築した。(なお比較のために他写本及び初期刊本(Caxton, Thynne)の情報も活用した。)③②の写本及び刊本のそれぞれにおいてまた両者を跨って、話法に付加されたタグはどの程度類似し、相違しているかを調査した。HgとElはAdam Pinkhurstという同一写字生のものと考えられるが、ここでも呼称、形態論(例えばfinal -e)、時制(時制の一致の有無、historical/narrative presentの使用)、統語法(例えば否定表現)、追加情報、写本レイアウト等において違いが見られ、事態に対する認知方法と表現方法の違いが看取された。初期刊本との比較では、後者にボブ(bob)の除去、final -eの非文法的な使用が散見された。調査結果について統計的な処理までは実行できなかった。本コーパスはチョーサーの言語の意味生成のプロセスを解明するのに有効と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
チョーサーの話法の意味付けに寄与すると考えられるタグを語りのマクロ構造からミクロ構造まで精緻化した。i. Tale、ii. ジャンル、iii. 言語主体、iv. 話法の種類(対話と思考)、v. 伝達動詞、vi. スピーチの文の数及び語数、vii. 言語指標(呼びかけ、間投詞、発話行為文、viii. 時制、ix. モダリティ、x. 韻律、xi. 句読点。 iii. 言語主体については、フィクショナルスペースにおいて、登場人物、語り手(1人称語り手、3人称語り手)、視点の転換装置“I”、そしてリアリティスペースの作家チョーサーを想定した。iv.話法の種類は、Fleischman (1990)を参照し、経験の再生をコントロールしているのが人物か語り手かで、段階的に規定した。FDS/T (Free direct speech/thought), DS/T (Direct speech/thought), FIS/T (Free indirect speech/thought), IS/T (indirect speech/thought), NRS/TA (Narrator’s report of a speech/thought act), Psycho-narration, NRA (Narrator’s report of an act)。『カンタベリ―物語』4テクストに対する上記のタグ付けは、部分的に留まった(General Prologue, Knight's Tale, The Tale of Sir Thopas)。写本と刊本の比較は、韻律、形態、統語、語彙、句読点等同定できたが、その統計的な処理まではできなかった。『トロイラスとクリセイデ』に関しては、中尾(2021)及びNakao (2021)において話法の質的・量的研究を実践、理論基盤を強化した。
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Strategy for Future Research Activity |
タグを作成済みの電子化された4つのテクストに付加する場合、多くのタグは明確に判定でき数量化が可能であった。しかし、いずれかの境界線上にあって、曖昧な場合も検出された。言語主体が必ずしも明確に制限されず重なり合って、語り手なのか、人物なのか、判別が難しい場合があった。いずれに同定するかで、Narrative Report of Speech/Thought Actになったり、FIS (Free indirect speech)に分かれた。このような事例は談話文脈を再検討する必要があると考えている。『カンタベリ―物語」のタグ付けは部分的に留まっているので、残りの作品に広げていきたい。また比較のために4テクストに加え、他写本及び初期刊本のタグ情報も適時加えていく予定である。写本及び刊本のそれぞれで、また両者を跨って、話法のタグ付け情報がどの程度類似し、どの程度違っているのかについては、形態論(final -e)、統語論(時制の異同)等、反復的に現れパタン化したものがあることに気づいた。その調査を量的に数値化、即ち、その差異を統計的に分析して、有意性があるのか否か明確にしたい。 話法が本質的には意味論の問題であることは、国内外的に見て十分に認識されていない。本研究で作成する意味論コーパス、そこから明らかにされる言語事実を学会で発表する予定である。2021年5月23日の日本英文学会で本研究の一部を発表することなっている。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響で、英国ダラム大学で開催予定の新チョーサー学会が延期になった。そこで本研究の一部を発表する予定であったが、それができなかった。研究代表者の中尾と研究分担者の地村、大野の出張旅費及び学会参加費を使用することがなく、出費予定のものが多く残った。新型コロナの収束状況にもよるが、本年度、研究の中間報告をし、指導助言を受けるために、英国、シェフィールド大学及びフランス、ソルボンヌ大学に出張する予定である。本研究の研究成果の一部を国内外での学会で発表したいと考えている。また話法のタグ付けの電子化及びその統計処理を一層精緻化していくために、電子機器(パソコン、iPad)の刷新を行いたい。また本研究に関係する写本及び刊本の電子版を購入し、研究の拡充をはかりたいとも考えている。
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Research Products
(7 results)