2020 Fiscal Year Research-status Report
Literary Dilemma in Post-war thinking: A Comparative Study of Southern American Literature and Modern Japanese Literature
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20K00434
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 和彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10205594)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 戦後的思考 / アメリカ南部文学 / 日本近代文学 / 敗北の文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、研究代表者が南部文学と近代日本文学とが共に「戦後文学」ないし「敗北の文学」と呼びうる根拠と併せて指摘してきた両文学の相違に着目し、同じ「敗北の文化」の所産としての両文学の瞠目すべき肌合いの違いについて、それぞれの文学の直接的な背景にある両者に共通の思考様態を、戦前と戦後、ふたつの真実と正義のあいだに引き裂かれた一種のディレンマとして見据え、同じディレンマにおける強度の差を両文学のこの差異の根幹にあるものと仮説的に見なし、その強度の差を生み起こしている様々な要因をそれぞれの文学の特徴を顕著に有する作家たちの文学のうちに検証することで、その作業仮説の有効性を問うことを目標としている。 本研究は令和2年度以降、4カ年計画で実施される予定であり、研究初年度にあたる令和2年度には、南部文学については、南北戦争敗戦後の占領期からいわゆる「新南部」期(あるいは「金メッキ時代」)までに活動した作家を対象とすることを計画していたが、研究代表者が所属する日本英文学会の全国大会シンポジアムに司会・講師として登壇を求められたため、シンポジアムの主題として「歴史と文学」を打ち出し、本来の研究計画に若干の修正を加えた。研究代表者自身は小説家が背負う地域的特性が描き出す女性主人公の一生の変転にどのような影響を与えたかを、フランス、イギリス、ロシア、ニューイングランドからそれぞれ析出した事例と比較し、南部からフォークナー『響きと怒り』のキャディ、近代日本から有島武郎『或る女』の葉子をとりあげ、相対的に見て彼女たちの人生の不可逆の屈曲が際立っていることを立証することを目指した。この年度はこの観点にたち、有島と『或る女』に関する批評を渉猟・読破し、一方で南部文学のうち女性の一生を描いた小説群(エレン・グラスゴー『不毛の大地』、ケート・ショパン『目覚め』等計6作)を詳細に検討し分析をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年5月に予定されている日本英文学会全国大会でのシンポジアム企画立案にしたがって、研究計画に若干の修正をほどこし、南部文学についても近代日本文学についても取り上げた具体的な作家群は当初の予定のものとは時代的に異なることとなったが、検討した作家たちは特に南部文学については想定していたものよりも広範囲におよび、当初には計画していなかった女性作家群を中心により多くの作家について研究を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究によって、本研究の主たる課題である南部文学および近代日本文学における「戦後的思考」の描出方法に分析的に研究するうえで、登場人物、特に時代や社会によって翻弄されがちな女性に着目することの有効性に気づくことができた。この点を多としつつ、昨年度研究対象として予定していた19世紀の南部作家ジョージ・ワシントン・ケーブルの主要作への検討はすでに緒についている。女性の一生の描かれ方という観点から、すでに昨年度、戦後日本から三島由紀夫『美徳のよろめき』『鏡子の家』へと分析を進めており、同一の観点から、今年度は太宰治などへも触手を伸ばしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型肺炎の世界的流行を受け、予定していたアメリカ合衆国への出張は現段階では実現が難しく、また同時に国内の学会や研究会も次々と中止ならびにオンライン化へと変更され、予定していた旅費を消化することができなかった。今後ともこうした状況が当面持続するものと思われるため、オンラインによる研究方法の拡充のための機器を周辺に整備し、加えて電子書籍等を含む資料の積極的蒐集へと研究費の使用方法を変更してゆきたいと考えている。
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