2022 Fiscal Year Research-status Report
Literary Dilemma in Post-war thinking: A Comparative Study of Southern American Literature and Modern Japanese Literature
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20K00434
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 和彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10205594)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 戦後的思考 / アメリカ南部文学 / 日本近代文学 / 敗北の文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、研究代表者が南部文学と近代日本文学とが共に「戦後文学」ないし「敗北の文学」と呼びうる根拠と併せて指摘してきた両文学の相違に着目し、同じ「敗北の文化」の所産としての両文学の瞠目すべき肌合いの違いについて、それぞれの文学の直接的な背景にある両者に共通の思考様態を、戦前と戦後、ふた つの真実と正義のあいだに引き裂かれた一種のディレンマとして見据え、同じディレンマにおける強度の差を両文学のこの差異の根幹にあるものと仮説的に見な し、その強度の差を生み起こしている様々な要因をそれぞれの文学の特徴を顕著に有する作家たちの文学のうちに検証することで、その作業仮説の有効性を問う ことを目標としている。 本研究は令和2年度以降、4カ年計画で実施されるが、研究計画3年目にあたる令和4年(2022年)度にあっては、初年度に調査対象として措定した19世紀後半、南北戦争敗退後の「新南部期」および昨年度に調査対象とした20世紀第一四半世紀におけるいわゆる「南部ルネサンス期」の南部文学から、20世紀後半、第二次世界大戦以降の南部文学ならびにベトナム戦争以後のいわゆる現代南部文学に射程を伸ばし、上記の大目標のもと、特に南部文学における南部性が時代とともに希薄化してゆく自然な歴史の推移と、これに対し、文学という一種の文化的包領における南部性の保守という観点に着目しつつ検証を行なった。 初年度研究対象とした「新南部期」の南部作家マーク・トウェインを取り上げ、日本近代文学論争史に残る正宗白鳥と小林秀雄のあいだの「思想と実生活」論争に言及しつつ、アメリカ南部と近代日本、両「敗北の文化」圏におけるそれぞれの文学に対する姿勢の通底と相違について論じた論文は、今年度当初の22年4月、日本ウィリアム・フォークナー協会機関誌『フォークナー』に掲載・刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね」順調であると判断した理由は、アメリカ南部文学、特に20世紀後葉の作品群に関して知見を順調に蓄えるに至ったし、去る1月には3年ぶりとなる渡米を果たし国際的学会活動への参加ならびに海外研究協力者との会合もかなうにはかなったのだが、年度後半に20世紀第一四半世紀のいわゆる「南部文芸復興期」に作家であり、この時代を代表する作家と目されるウィリアム・フォークナーに比肩する文学的才能とみなされながら、今ではまったくといってよいほど顧みられなくなった女性作家イヴリン・スコットによる南北戦争を様々な視点から通覧する実験的問題作『波』The Waveをとりあげて調査・検討するのに、この作品の長大さ、英語表現の難解さが予想を遥かに超えており、予定よりも大幅に時間を割かれたことで、日本近代文学側の作家・作品への新規取り組みがややおろそかになったと認識しているためである。
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Strategy for Future Research Activity |
新年度は、年度前半に、ある文学・文化史家によれば、最初期のアメリカ南部作家と目されるエドガー・アラン・ポーをとりあげ(研究代表者はこの特定の文学・文化史家の見解に対し疑義を唱えたいと思っているが、そのことも踏まえつつ)、後半に「南部文芸復興期」直後、つまり「フォークナー以降」の作家からキャサリン・アン・ポーターをとりあげる予定であり、くわえて上記のようにやや遅滞気味の日本近代文学研究に関しては、「戦後文学研究」関連資料を引き続き渉猟し、注目すべき研究成果(とりわけ「大日本帝国」の戦後崩壊による旧植民地消滅の文学史的意義を基軸に展開されたもの)をさらに開拓するとともに、近代文学あるいは戦後文学関係の学会・研究会等に参加し、可能であれば、各領域の研究者とも積極的な交流を持ちたいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度末には、3年ぶりにModern Language Associationsの世界大会のため渡米することができたことを除けば、国内での学会や研修会等は依然として新型肺炎をめぐる社会状況のため、活動制限を余儀なくされ、もっとも重点的に予算を計上していた旅費を予定通りに消化できなかったことが、昨年度同様、次年度への繰越金が生じた理由である。23年度に向けて徐々に所属する国内大規模学会も通常開催へ踏み切ろうとしているので、各種所属学会への参加に加え、国内外を問わず、研究会を自主的に催して研究者間の交流をはかるとともに、より積極的な研究活動を行うことができるであろうと期待している。
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