2020 Fiscal Year Research-status Report
How culture can be successfully introduced to bring inter-ethnic harmony: Learning from the Tlingit cultural emissary, Nora Marks Dauenhauer
Project/Area Number |
20K00438
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
林 千恵子 京都工芸繊維大学, 基盤科学系, 教授 (10305691)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アラスカ先住民族 / クリンギット(トリンギット) / ノーラ・マークス・ダウエンハウアー / 民族共生 / 文化の発信 / 地名研究 / 先住民由来の地名 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アラスカ先住民族クリンギット(Tlingit)の作家・言語文化研究者ノーラ・マークス・ダウエンハウアー(Nora Marks Dauenhauer)による伝統文化の解説が「白人」による異文化理解をなぜ促進できたのかを明らかにするものである。 ダウエンハウアーは1960年代から50年以上にわたって、消滅危機にあったクリンギットの言語や口承物語の記録、翻訳、研究を続ける一方で、「文化の代弁者」として講演や各種メディアを通じて一般聴衆に向けて伝統文化の解説を続けた。本研究では、Sealaska Heritage Institute (SHI)やAlaska State Museum 等が所蔵する資料をもとに、伝統文化の中でも、特に精神文化の解説内容と伝え方の変遷をたどり、ダウエンハウアーの文化解説上の戦略的工夫を明らかにすることによって、対立民族を相互理解へと導く文化発信のあり方を解明することを目的としている。 2020年度は予定していた現地調査研究が中止となったため、計画を変更し、ダウエンハウアーの活動期の社会背景を明らかにする文献研究を実施した。具体的には、アラスカ州南東部における過去50年間のクリンギットの生活や社会的地位の変化、そして現在の民族共生の象徴的現象であるクリンギット語地名への変更の動きとその背景について、歴史資料と各種データ、先住民族へのインタビュー記録等をもとに明らかにした。彼女の言説上の変化と社会変化の相関性を確認し、社会変化に合わせたダウエンハウアーの戦略的工夫を明らかにする際に重要な資料となるからである。 研究の結果、アラスカ州南東部で「白人」による先住民文化理解が浸透してきたこと、その一因としてクリンギットの言語、歴史、文化研究の学術的知見を基盤とした地名研究の成果により、先住民由来の地名評価の高まりがあったことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の計画では、2020年度にSealaska Heritage Institute (SHI)、Alaska State Museum及びUniversity of Alaska Southeastにおいてダウエンハウアーの講演やラジオ出演の録音記録の調査研究を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症拡大により渡米不可能となったため、日本において文献研究を実施した。 ただし、本研究で最も重要な資料となるダウエンハウアーの著作物(新聞記事、雑誌記事、ガイドブック等の解説といった資料)は現地研究機関が所蔵している。またSHI所蔵の資料はオンライン検索が可能であるものの、すべて現地研究員に資料請求をする必要があり、資料入手だけで多くの時間を要する。そのため、研究の効率的推進の観点から、2020年度はダウエンハウアーの活動期であった過去50年間のアラスカ州南東部の社会変化を、歴史資料と各種データとインタビュー記録をもとに明らかにする研究に従事した。 具体的には、クリンギットの生活や社会的地位の変化、差別の実態、そして現在のアラスカ州南東部で興隆するクリンギット語地名への変更の動きを詳細に調べ、民族共生社会実現への社会の変化を明らかにした。研究で得た知見のうち、特に地名変更運動とその背景に関する研究結果を2021年8月のエコクリティシズム研究学会で発表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、アラスカ州の各研究機関を訪問して、相当量の所蔵資料を確認・精査する必要がある。2021年5月初旬時点で、研究実施機関が位置するジュノーでは人口の約6割が新型コロナウィルス感染症のワクチン接種を終え感染症は沈静化している。しかし、日本ではワクチン接種完了の時期も不透明で変異株による感染状況も深刻化しており、今後の渡米について見通しはたっていない。また2020年度に実施予定であった研究が次年度以降にずれこんだため、今後負担が増すことが予想される。そのため計画を以下のように見直すこととした。 研究対象の資料については、音声資料の確認がオンラインでは困難であるため文献資料のみへと変更する。現地調査については、2021年に日本と米国の社会状況が好転した場合には2022年3月に渡米して現地調査を実施する。社会状況の見通しがたたない場合には、渡航は2022年夏のみとして6月から9月の間に現地で資料調査を行う。 2021年には、これまでに得られた知見をもとに二学会での研究発表及び論文投稿を行い、2022年は現地調査研究と最終報告書作成に集中する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の世界的拡大により、当初予定していた米国での資料調査研究が不可能となり外国旅費分として計上していた額を使用しなかった。今後の計画では、2021年度に米国への渡航が可能となった場合には、2022年3月にアラスカ州での現地調査を実施し、繰り越された外国旅費相当分を渡航費と現地宿泊費に充当する。その他の予算は、現地の各研究機関への資料請求と取り寄せ費用と図書購入費に充当する予定である。
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