2020 Fiscal Year Research-status Report
Reconsidering Religious Faith in Herman Melville's Clarel
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20K00441
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
竹内 勝徳 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (40253918)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ハーマン・メルヴィル / ディアスポラ / 『クラレル』 / ミレニアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
メルヴィルが『クラレル』で描いたキリスト教ミレニアリズム思想とアメリカ国民の移住の関係について、基本図書を読解すると共にトランスナショナリズムの観点から検討を行った。現代と同じく19世紀の世界では、ある国の国民が宗教的、あるいは、政治的、経済的理由によって他国へと移住し、そのまま離散してしまうディアスポラ的な状況が見られた。『クラレル』に登場するアメリカ人、ネイサンはユダヤ教に改宗するためにわざわざアメリカからパレスチナに移住した人物であり、まさにこの状況を体現していた。アメリカで農業を生業としていたネイサンがそのままパレスチナで農夫になるという展開は、メルヴィルの作品をたどっていくと、『オムー』が描くタヒチ島で働くイギリス人農夫や、「エンカンタダス」に登場する隠者オバラス、『レッドバーン』においてアメリカでの職探しをするイギリス少年ハリー・ボルトンなど、ディアスポラ的な系譜の中に位置付けられることが分かる。この系譜の中では、アメリカから他国へ、そして、他国からアメリカへというように、移動パターンが逆転的に再配置されており、それがトランスナショナルな合わせ鏡のように国家の問題を映し出していることが分かる。また、このような移動がジョージ・リパード『クエイカー・シティ』と同じく、労働環境の世界的、ミレニアム的変革、あるいは、その陰画として構築されていることが推察される。こうした分析を本年5月末に開催予定の日本英文学会シンポジア「Labor Diaspora/ Labor Mobilityーアメリカ文学における労働と移動」において発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大により、エルサレムやハーヴァード大学への出張が取りやめになったが、トランスナショナリズム研究と文献調査にシフトすることで当初の目的は達成できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
予定通り、2021年度はメルヴィル作品を読み直し、ミレニアリズムとユダヤ教に関する扱いを取りまとめる。また、19世紀の宗教的多様性に関するメルヴィルの意識を読み取る。また、ナサニエル・ホーソーン小説におけるミレニアリズムの描き方を分析する。ジョージ・リパードの『クエイカー・シティ』における終末論的表現を分析する。この場合は、終末論が、労働者の救済と上流階級の破滅のパターンに変奏されている点に注意する。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大により海外、国内含めて出張が一切できなかった。上述したように、それは文献調査によって補うことができた。今年度は図書費と国内旅費を中心に使用計画を立てている。
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