2020 Fiscal Year Research-status Report
Anonymity and Self-Revelation Among Women Writers in the 19th Century
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20K00450
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
永井 容子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (80306860)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 19世紀英文学 / 女性作家 / 隠蔽 / 匿名性 / 自己開示 / 自己成型 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀、特に1860年代まで実施されていた刊行物の匿名性が、女性執筆家にとって世間の批判や詮索から身を守る手段であったと同時に、小説、批評、随筆、詩などを媒体に広範な題材に対して自らの見解を発信する自己開示の場であり、文筆家としてのアイデンティティを確立する、いわば自己成型を促す作家戦略であったことを立証するものである。身分を隠蔽し、匿名・偽名で作品を発表する慣習とそれを利用してきた多くの女性執筆家に着目することにより、彼女達が自らの意思で読者に伝えてきた様々な「声」が明らかになる。19世紀英国ジャーナリズムおよび文壇における女性の立ち位置を改めて見直す際に、署名方式で発表された作品から読み取る女性達の「声」と同じように、匿名・偽名で書かれた作品から読み取る彼女達の「声」に注目する必要がある。2020年は、匿名で主要小説を発表したJ. AustenとE. Gaskell、さらに偽名で小説を発表したG. Eliotについて、匿名・偽名で書かれた随筆・評論も含め、匿名作品と非匿名作品を比較し、筆者の視点と語りについての考察を進めた。女性作家が自らの執筆活動を通して何を求め、どのような手法によってそれを成し遂げ、作品に反映させてきたかを精査した。とりわけGeorge Henry Lewesの女性文学論を切り口に、J. AustenとG. Eliotを比較対照し、語り手の視点が如何に流動的で、意図的に曖昧で複眼的なものになっているかを明らかにした。女性作品に見る語り手の揺れを作品の匿名性と絡め考察し、女性作家が小説を執筆する際の心理の有様と変遷を詳細に分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究初年度である2020年には、British Newspaper Archiveおよび大英図書館に収容されている希少な定期刊行物を使って、匿名と非匿名作品を比較し、その内容、視点、語りを検証し、相違点がある場合はその理由を考察する予定であった。これらの作業は、夏季休暇中に実施する英国(ロンドン)での集中的な資料調査により目標が達成されるが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、海外渡航が事実上不可能となり、資料収集がオンラインによる限定的なものになった。しかしながら、当初の「研究実施計画」通り、J. Austen、E. Gaskell、G. Eliot等、主要女性小説家にとって匿名性が自衛の手段であると同時に、自己開示および自己成型を促すきっかけになったことを実証することができた。その成果の一部を第24回ジョージ・エリオット協会全国大会シンポジウム(Jane AustenとGeorge Eliot「深遠なる重要性を帯びた影響」―その探求と魅惑)で発表することが決まっていたが、大会が新型コロナウイルスの影響により2021年に延期になった。また、年間を通しての学会活動についても、新型コロナウイルスの感染拡大により計画変更を余儀なくされた。5月16日・17日に琉球大学にて開催予定であった日本英文学会がウェブカンファレンスとなり、7月にイギリス・バーミンガムにて、出席を予定していたBAVS (British Association for Victorian Studies)の大会が、2021年に延期された。英国・大英図書館での資料調査を始め、国内外の学会参加のために計上していた旅費が未使用になったため、次年度使用額が生じた。資料の調査研究が途上であることと、研究成果の公開が学会の延期により遅れている状況を勘案し、本研究は現在のところ、やや遅れていると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの影響で海外渡航が困難である現状下では、大英図書館のリモートオンラインサービスで入手可能な定期刊行物資料を使って分析・考察を行う。暫く臨時休業が続いていた英国・大英図書館は、4月20日に再開されたが、2021年度の夏季休暇と春季休暇中に予定している海外渡航(学会・調査)が実施可能かどうかは国内外の状況次第である。状況が改善すれば、渡英し、2020年に収集予定であった定期刊行物の匿名と非匿名作品の比較検証を集中的に行いたい。研究2年目の2021年から研究3年目の2022年にかけては、1850年代以降の定期刊行物を精査し、女性批評家や女性編集者の活躍が出版界および文壇における女性作家の捉え方に変化をもたらしたかを検証し、当初の計画に基づき研究を遂行する予定である。研究初年度に考察がほぼ完了している女性小説と匿名性の関係性についての研究成果は、研究2年目である2021年から、学会発表および論文という形で随時、公開を予定している。まず、既に完成しているG. Eliotと匿名性に関係する英語論文は、国内学会の学会誌(9月締切)に投稿する。また、昨年度延期になった日本ジョージ・エリオット全国大会は、2021年12月11日に龍谷大学にて開催されることが決定しているため、研究初年度の研究成果はシンポジウムの発表としても公になる。海外の学会については、今後の新型コロナの状況を勘案し、対面・オンラインの同時開催が予定されているものに参加し、海外の研究者と意見交換を行う場として活用したい。
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Causes of Carryover |
当該年度の研究進捗状況にも記した通り、旅費支出を伴う一次資料の調査研究(英国・ロンドン)および国内外の全ての学会参加が、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により中止または延期になったことによって、国内外の旅費が未使用となり、次年度使用額が生じた。研究2年目(2021年度)は、研究初年度に行えなかった英国においての資料調査や学会参加を実現するために、2回(2021年夏・2022年春)の海外渡航を予定している。研究初年度からの研究成果を2021年度より複数回、英語論文の形で公開する準備を進めているため、論文校閲のための費用として約20万円の支出が見込まれる。また、研究を遂行する上で必要なレーザープリンターと基本図書を既に選定しており、2021年度にその購入を実施することになる。このような使用計画をもって、2021年度の研究を遂行する予定である。
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