2021 Fiscal Year Research-status Report
Anonymity and Self-Revelation Among Women Writers in the 19th Century
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20K00450
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
永井 容子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (80306860)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 19世紀英文学 / 19世紀定期刊行物 / 女性作家 / 匿名性 / 隠蔽 / 視点 / ジョージ・エリオット / ジェイン・オースティン |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度は、女性が身分を隠蔽し、匿名・偽名で作品を発表する慣習とそれを利用してきた19世紀女性小説家達に着目し、作品における「視点」と「語り」について考察を進めることにより、彼女達が執筆を通して何を求め、どのような手法によってそれを成し遂げたのかを明らかにした。2021年度は本研究の2年目にあたるが、Jane AustenとGeorge Eliotに特に焦点を当てながら匿名性と物語の視点の関係性を更に精査し、研究成果として発表した。Austenのように匿名で小説を発表する、またEliotのように偽名を使用して小説を発表する行為は、作者の世間に対する一種の自己防衛であると同時に、自らの作品と一定の距離を保ち多角的な視点や多様な解釈を容易にする作家戦略であるという結論に至った。「確実な認識」や「完結」に至らない「捉えどころのなさ」(elusiveness)というものが、AustenとEliotの小説の存在様態を表すものであることを指摘し、この特徴こそが、匿名・偽名の性質そのものを表すものであることを論証した。
19世紀イギリスでは、多くの女性が身分を隠蔽して匿名・偽名で定期刊行物に寄稿していた事実がある中、最初から署名方式で原稿を執筆していたEmilia Francis Dilkeの活動を彼女の書簡(大英図書館所蔵のDilke Papers)から読み解いた。定期刊行物の匿名性を利用していた、または利用していなかった女性執筆家やジャーナリストの実態や執筆動機についての資料収集と分析はまだ部分的なものに留まる点が多く、この点は2022年度において継続的に実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大により渡航調査が難しい状況下であったものの、予定していた2回の海外渡航のうち1回(2021年夏)は実現し、大英図書館(イギリス・ロンドン)にて一次資料の調査研究を実施することができた。研究初年度に収集予定であった定期刊行物の匿名と非匿名作品の比較検証を集中的に行う一方で、匿名性を利用しないで署名式で原稿を執筆した稀有な存在であるEmilia Francis Dilke (1840-1904) の活動を彼女の書簡(Dilke Papers, BL Add. MS. 43875, 43903-43908, 43946, 49446, 49454, 49455, 49611)および関連資料から読み解いた。また、大会が1年延期となっていた第24回日本ジョージ・エリオット協会全国大会シンポジウム(2021年12月11日)では、これまでの成果発表として、女性小説家と匿名性の関係性を明らかにし、匿名性を一つの作家戦略として捉えた。George Henry Lewesの女性文学論を切り口に、Jane AustenとGeorge Eliotを比較対照し、語り手の視点が如何に流動的で、意図的に曖昧で複眼的なものになっているかを提示した。なお、2022年度は、これまでの成果発表の論文執筆や海外への研究成果の発信を含め、当初の計画通り、遂行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に収集した資料およびその分析結果を吟味し、2022年度は、その成果を国内外に公表する段階に至っている。2022年9月1日~3日にイギリス・バーミンガムにおいて開催予定のBAVS (British Association of Victorian Studies) 2022 Conferenceでの発表を計画しており、またイギリスの学会誌The George Eliot Reviewにも論文を投稿する予定である。また、2021年に発表したJane AustenとGeorge Eliotにおける匿名性と視点に関する論考は、内容を更に発展させて共著として2023年3月に春風社より刊行予定であり、既に準備作業が進行中である。
2022年度は、当初の計画通り、研究を遂行する予定である。女性ジャーナリストが1850年代以降、Fraser’s Magazine、Blackwood’s Magazine、Westminster Review、British Quarterly Review等の定期刊行物を中心に活躍を見せるようになると、女性の作品が批評の対象となるばかりか、女性が自ら批評家や編集者として批評の当事者に転じることもあった。1850年代以降の定期刊行物を精査し、出版界および文壇における女性の捉え方に変化が見られたかを検証する。女性たちが執筆・編集活動を通して、当時のジェンダー像を塗り替えていた可能性を探る。また、1860年代に定期刊行物の匿名性が批判の的となり、Fortnightly ReviewやMacmillan’s Magazineを始めとする定期刊行物が寄稿者の署名を求めるようになった。この変化が、女性の執筆活動に与えた影響を検証するために、同一作家が手掛けた1860年以降の非匿名の記事を1860年以前の匿名の記事と比較する。
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Causes of Carryover |
当該年度の研究進捗状況にも記した通り、旅費支出を伴う2回の調査研究が1回となり、また国内で開催された全ての学会がオンラインで実施されたことによって、国内外の旅費が一部未使用となり、次年度使用額が発生した。研究3年目(2022年度)は、これまでの研究成果を研究発表や英語論文、更に共著にまとめる予定であり、そのための渡航、校閲、出版にかかわる支出を予定している。1850年代以降の定期刊行物における女性編集者の役割・影響を分析・精査する必要があるため、イギリスの主に大英図書館での資料調査を同時並行的に遂行する。このような使用計画を持って2022年度の研究を進める予定であり、次年度使用額は、本来の研究計画を達成するものとして使用することになる。
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