2020 Fiscal Year Research-status Report
英語圏のレイト・モダニズムの理論と実践をめぐる総合的研究
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20K00451
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 元状 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (50433735)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | モダニズム / レイト・モダニズム / ブルームズベリー / ホガース・プレス / 世界文学 / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2000年代前後のポストモダニズムの言説の退潮とともに、北米のアカデミーで前景化してきた「レイト・モダニズム」の言説に焦点を合わせ、モダニズム研究におけるこの言説の理論的な射程と実践的な可能性について、下記の三点の視座から総合的な検証を行うものである。(a)「レイト・モダニズム」(late modernism)とその近接的時間概念の関係性についての批判的考察、(b)「レイト・モダニズム」の言説の歴史の批判的検証、(c)ブルームズベリー・グループの弁証法的プログラムとしての再配置。 初年度は、上記の(a)(b)に関して、理論書の入手および読解を進めるとともに、(c)に関して、ブルームズベリー・グループと関わりのある複数の人物について資料収集を中心としたリサーチを進めた。そのなかでの一番の発見は、ヴァージニア・ウルフの義理の兄に相当するクライヴ・ベルが批評家として、グループのなかで担っていた情報通としての側面である。クライヴ・ベルが同時代のフランスの文学者マルセル・プルーストを高く評価し、ホガース・プレスより単著を出版していることはほとんど文学史・文化史のなかで語られることのない出来事である。 この発見をベースにプルーストの英訳者スコット・モンクリフの重要性が浮上したため、プルーストのグローバルな受容をめぐる国際オンライン・イベント「プルーストと世界文学」(2020年11月14日10:00-12:00)を企画した。カリフォルニア大学のD. A. Miller 、香港嶺南大学のMary Wong、東京大学の田尻芳樹、佐藤が口頭発表を行った。このイベントが本年度の研究業績の中心となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナの影響で国際的な移動を伴ったかたちでのリサーチや研究発表は、困難になっているが、逆にこの状況だからこそできる研究スタイルがある。 そのことに早い段階で気づいたため、リサーチに関しては、取り寄せることのできる海外の新刊出版物、入手が容易な国内の出版物、および国内のオンライン資料に限定し、資料収集を進めていった。ホガース・プレスから出版された古書の購入は、国際的な郵便状況を配慮して、今年度はほとんど見送るかたちになってしまったことが心残りであるが、新刊のかたちで出版されているものはそちらを代わりに購入するなど、適宜判断をして資料収集に専念した。 海外でのアーカイブ研究ができなかったこと、海外または日本での国際的な交流ができなかったことが残念であるが、それを埋め合わせるようなかたちでZoomを活用した国際オンライン・イベントを開催できたことは大きな意味があった。アメリカ、香港、日本の研究者がオンライン上のスペースに集まり、研究発表を行い、発表後もフロアを交えて知的交流を行えたことは、研究者としての士気を高める上でも有益だった。 また皮肉ではあるが、海外に渡航する時間を読書に回せたことも、研究が順調に進展している理由となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナの状況が劇的に好転しない限り、海外でのアーカイブ研究および研究発表は難しいと判断して、本年度も昨年度と同様のアプローチを採用する。つまり、(1)国内外で入手可能な研究資料の収集および読解、(2)オンラインを活用した国際的な研究イベントの継続的な運営。 (1)に関しては、国際的な郵便状況も考慮しつつ、ホガース・プレスから出版された古書の購入も積極的に行っていき、アーカイブ研究が実践できないことの埋め合わせとしたい。 (2)に関しては、身体的な移動を伴わないかたちでの国際的なオンライン・イベントを積極的に企画していく。「自分だけのズーム」(A Zoom of One’s Own)と題したグローバルなオンライン・イベントを継続して行っていく。 上記の二点に加えて、今年度は研究成果を論文としてまとめて、投稿していきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、紀伊國屋書店に注文していた図書が年度内に到着しなかったためである。差額はわずかであり、今年度の図書の購入に充てる予定である。
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