2021 Fiscal Year Research-status Report
英語圏のレイト・モダニズムの理論と実践をめぐる総合的研究
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20K00451
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 元状 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (50433735)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | モダニズム / レイト・モダニズム / ブルームズベリー / ホガース・プレス / 世界文学 / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2000年代前後のポストモダニズムの言説の退潮とともに、北米のアカデミーで前景化してきた「レイト・モダニズム」の言説に焦点を合わせ、モダニズム研究におけるこの言説の理論的な射程と実践的な可能性について、下記の三点の視座から総合的な検証を行うものである。(a)「レイト・モダニズム」とその近接的時間概念の関係性についての批判的考察、(b)「レイト・モダニズム」の言説の歴史の批判的検証、(c)ブルームズベリー・グループの弁証法的プログラムとしての再配置。 本年度は(a)と(b)に関する研究書の読解を進めるとともに、(c)に関して具体的な介入を行なった。(a)と(b)に関しては、Rebecca BeasleyのRussomania: Russian Culture and the Creation of British Modernism, 1881-1922. (OUP, 2020)から多くを学んだ。この著作は、芸術的な実験性をモダニズムの本質として捉える傾向を「フランス型のモダニズム」と呼び、そこからこぼれ落ちる、形式よりも内容を重視するもう一つのモダニズムの姿を浮かび上がらせ、それを「ロシア型のモダニズム」と呼んだ。そして後者に関して、ロシア文学の英語への翻訳がモダニズムの編成において果たした役割についても生産的な観点を打ち出した。 この翻訳の視点と連動させるような形で、主に(a)、(c)に関して、今年は世界文学・語圏横断ネットワークで「モダニズムの翻訳――ヴァージニア・ウルフの場合」という研究発表をしたり、シンポジウム「Second Time Around ――D. A. ミラーの映画批評をめぐって」を企画し、そこで “The Secret of Reading: Hitchcock, Chabrol, D. A. Miller.” という研究発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナの影響で国際的な移動を伴ったかたちでのリサーチや研究発表は、困難になっているが、逆にこの状況だからこそできる研究スタイルがある。 リサーチに関しては、昨年度に引き続き、取り寄せることのできる海外の新刊出版物、入手が容易な国内の出版物、および国内のオンライン資料に限定し、資料収集を進めていった。海外でのアーカイブ研究ができなかったこと、海外または日本での国際的な交流ができなかったことが残念であるが、今年もそれを埋め合わせるようなかたちでZoom を活用した国際オンライン・イベントを開催できたことは大きな意味があった。私が企画したオンライン・シンポジウム「Second Time Around ――D. A. ミラーの映画批評をめぐって」では、アメリカ、香港、シンガポール、京都、東京の研究者がオンライン上のスペースに集まり、研究発表を行い、発表後もフロアを交えて知的交流を行なった。このイベントは、研究者としての士気を高める上でも有益だった。 また皮肉ではあるが、海外に渡航する時間を読書に回せたことも、研究が順調に進展している理由となっている。質の高いモダニズム関連の図書を読み進める中で、本研究のレイト・モダニズムのプログラム編成という課題に関して、世界文学や翻訳といった観点がより大きな視点を提供してくれることがわかってきた。近年の世界文学研究の動向にも気を配りつつ、現代文学を主にその対象とするこの世界文学・翻訳のディスコースをどのようにモダニズム研究に接続していくことができるのか、発展させていくことができるのかが、今後の課題として重要になってきている。 以上、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度と同様に、コロナの状況が劇的に好転しない限り、海外での長期のアーカイブ研究は難しいかもしれないが、状況に応じては、海外での国際発表は行なっていきたいと考えている。少なくとも、海外のシンポジウムには積極的にプロポーザルを送っていくつもりである。しかし、コロナの状況を現実的に受け止めて、これまで通り、研究の推進を進めていく。以下、三つの基本方針について説明していく。 (1)国内外で入手可能なモダニズム研究関連資料の収集および読解、(2)オンラインを活用した国際的な研究イベントの継続的な運営、(3) 国内外の関連所属学会での研究発表。 (1)に関しては、引き続き、毎年出版されるモダニズム関係の文献を入手し、読解作業を進めていく。とりわけ、研究の方向性に世界文学や翻訳及び翻案の観点が入ってきたため、これらの学問分野での研究の進展にも気を配っていきたい。 (2)に関しては、身体的な移動を伴わないかたちでの国際的なオンライン・イベントを積極的に企画していく。例えば、本年度は、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』をめぐる環太平洋国際シンポジウムを企画している。濱口監督の映画は、アダプテーション研究の文脈からも十分に論じられるものだが、この作品はベケットやチェーホフ、村上春樹のテクストを主題として扱っているため、むしろ「長いモダニズム」、「レイト・モダニズム」の視点から、モダニズムの翻訳という視点から介入していきたいと考えている。 (3)に関しては、国内の所属学会である表象文化論学会や日本英文学会での研究発表の機会を狙ってみたい、と考えている。とりわけ、翻訳研究に関しては、「翻訳の理論と実践」というタイトルでパネル発表を行ってみようと模索している最中だ。国外の学会にも積極的にアプローチしていきたい。またこの三つに点に加えて、適宜論文を投稿していく。
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Research Products
(9 results)