2020 Fiscal Year Research-status Report
量的分析を用いた影響研究-19世紀イギリス・ロマン派の文学共同体のダイナミズム
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20K00453
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
橋本 健広 中央大学, 国際情報学部, 教授 (70566546)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 量的研究 / コウルリッジ / 『失楽園』 / 詩の持続可能性 / tf-idf / コサイン類似度 / デジタル・ヒューマニティーズ / テクスト分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、データ可視化あるいは語彙の出現頻度といった量的分析を用いて、19世紀イギリス詩・演劇作品にみられる他の時代・文化圏に属する作品の取り入れを、詩の持続可能性と多文化共生という観点から考察し、フランス革命やグローバル化といった変容する時代に特有と思われる文学的傾向を模索するものである。 2020年度は、19世紀イギリス・ロマン派の詩人サミュエル・テイラー・コウルリッジの292編の詩を対象に、17世紀詩人ジョン・ミルトンの劇詩『失楽園』の取り入れを、語彙の出現頻度(tf-idf)とコサイン類似度にもとづき、詩の持続可能性の観点から検討した。量的分析の結果、16篇の詩が影響がみられる詩として抽出され、次に質的分析を踏まえて、6篇の詩が確かに『失楽園』に類似する可能性が高い詩として導かれた。 ミルトンの詩がコウルリッジの詩に影響を与えたことは、多くの先行研究で指摘されている。しかしながら、先行研究の影響の研究は詩の精読を研究方法とした質的研究であり、量的研究はなされていない。本研究では、量的研究によって、『失楽園』とコウルリッジの諸作品の類似を検討したことに意義がある。本研究で行った量的分析という新しい分析手法によって、質的分析との併用を必要とするものの、客観的な研究手法への道が開かれた。またこれまで顧みられることのなかった詩にも『失楽園』の影響がみられることが、量的分析によって示された。 コウルリッジがミルトンの『失楽園』を、折に触れて取り入れ、自らの詩を作ったことは、『失楽園』を利用して自らの詩的空間を広げ、詩の持続可能性を高めたといえる。本研究成果により、詩の持続可能性を具体的な詩によって跡づけることができ、変容する時代の一つの文学的傾向をあらわに示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展していると評価できる。交付申請書における研究計画は、量的分析を用いて、19世紀イギリスの詩・演劇作品における他の時代・文化圏に属する作品の取り入れを、詩の持続可能性と多文化共生という観点から考察し、時代に特有の文学的傾向を模索することである。すなわち、過去の文芸作品の影響もしくは同時代の他文化圏の文芸作品の影響を調査・分析することである。 この計画に従って、交付申請書では、令和2(2020)年度の研究はイギリス文学の過去の作品からの影響、すなわち詩の持続可能性について研究することとした。2020年度の研究はコウルリッジと『失楽園』のみを取り上げたが、研究の基礎となる理論とその具体的作品への応用を、コンピューター上での実装方法とともに、研究成果へとつなげることができた。 また2020年度は、日本英文学会、イギリス・ロマン派学会に参加し、情報収集を行う予定であったが、参加だけでなく、発表と論文投稿まで進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては、2020年度の研究を拡大し、コウルリッジ以外の他の詩人と過去の詩の影響を検討する予定である。ワーズワス、ドレイトン、サウジー、テニソン等を検討の対象としたい。また交付申請書では、主に中東を中心に他の文化圏の詩の影響を調べる予定を記載したため、該当の詩作品の講読を中心に研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
2020年度は、学会がオンライン開催となったため旅費が不要となったこと、購入を予定していたソフトウェアが無償となったことなどから、未使用額が残り、次年度使用額が生じた。
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