2023 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Text Flow in the Manuscript Tradition of Medieval German Literature: The Case of Dietrich's Epic
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20K00462
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
寺田 龍男 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 研究員 (30197800)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 中世ドイツ文学 / 比較文学 / 写本 / 本文の流動 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度も当初の計画に沿って作業を進めた。目標は、(1)「ディートリヒの冒険叙事詩」諸作品には作品の成立当初から複数の「オリジナル」があったという仮説を立てること、および(2)写字生が書写の過程で複数の典拠を使用したために本文が流動したという仮説を立てること、この2点である。 中世ドイツ文学では多くの場合、典拠と作品本文との関係が不明確であるが、本企画の上記2点の目標を達成するためには、典拠を書写して写本が作成される過程で本文がどのように流動するのかを考察しなければならない。書記伝承の実態がその場に居合わせた人にしかわからないのは論を俟たないが、中世ドイツ文学でも例外的に作品における記述と出典の関係が明らかなハインリヒ・フォン・ミュンヘンの『世界年代記』の事例を参照することにより、研究を進めることができた。 その『世界年代記』では、実態の把握と分析が可能であることを前年度の発表論文で示した。そこで得られた知見をもとにして、ディートリヒ叙事詩の諸作品につき、本文流動のあり方を考察した。 なお作品の本文が写本ごとに異なるというのは、書写作業を人の筆写に頼り、なおかつ著作権の概念がなかった前近代においては普遍的に見られる。しかし同じ理由で、実態の解明が困難な現象でもある。まさにそれゆえ、異文化間の比較が、個別現象における作業仮説の構築に有効である。以上の考えから、本文流動の研究が盛んな中世日本文学研究の成果に学んで流動の要因や背景事情などについて調査し、中世ドイツ文学の研究への応用の可能性を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和5年度に研究成果を公表することはできなかった。しかしデータ分析は予定通り進めた。また研究協力者との協議などで本研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
計画最終年度であったが、延長申請が認められたので遅れを取り戻すためさらに研究を進める。 本文流動という現象については、作品成立初期の段階で、すでに複数の「オリジナル」が存在したことが原因となる可能性があり、その仮説をもとに考察を進めてきた。しかし流動の原因はもとよりそれだけではなく、さまざまな要因が考えられる。そこで今後は、以下の方針で作業を続ける。 (1)写本の本文に即した考察と分析を引きつづき行い、実証的な論を進めるための基礎データを収集する。 (2)本文流動の現象について様々な指摘がすでになされている日本文学研究の成果を援用して、中世ドイツ文学研究のための仮説構築に向けた作業を行う。
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Causes of Carryover |
今年度は海外旅費により、ドイツ・ブレーメン大学で研究協力者との打ち合わせと同大学図書館古文書資料室での調査、およびハンブルク市在住の研究者へのインタビューを行う予定だったが、諸般の事情により渡航がかなわず、また新たな書籍などは購入せずデータ分析と論文の執筆をおこなったため(印刷中)、出費は若干の文房具の購入などにとどまった。 次年度は、旅費により海外研究協力者と対面で協議し、さらに本研究の推進に重要なヒントを与えるであろうさまざまな資料を直接閲覧して、さらなる成果をもたらす作業をおこなう。またこの間に本研究に関連する成果を含む研究書や論文が多数刊行されているので、それらを購入ないし図書館経由の文献貸与及び複写サービスを利用して入手した上で比較検討し、この研究企画の理論をさらに精緻化する。
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