2021 Fiscal Year Research-status Report
Le Clezio and Asian Cultures
Project/Area Number |
20K00465
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中地 義和 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (50188942)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 雅生 学習院大学, 文学部, 教授 (30431878)
MARIANNE SIMON・O 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (70447457)
塚本 昌則 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (90242081)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ル・クレジオ / アジア文化 / 韓国小説 / 漢詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
アジア文化がル・クレジオの創作に及ぼしたインパクトを具体的に検証するために、2021年度は、作家が近年立て続けに発表しているアジアと密接なつながりのある作品の翻訳と作品分析に主力を注いだ。 研究代表者の中地は、2017年にまず韓国語訳が刊行され、翌18年にフランス語版原書と英訳が同時に刊行された小説『ビトナ、ソウルの空の下で』の日本語訳を刊行し(2022年2月)、巻末に踏み込んだ作品分析を添えた。ソウルが舞台で、登場人物は全員韓国人である「韓国小説」をフランス人作家が書くにあたっては、世界有数の巨大都市の住人たちの孤独の観察と、メンタリティの古層にある輪廻転生の死生観やシャーマニズム的心性への着目が働いている点に光を当てた。 また、研究協力者の鈴木は、『中国における十五の語らい.詩的冒険と文学的交流』というル・クレジオの講演集(原書2018年刊)の訳出と分析を行ない、『ル・クレジオ、文学と書物への愛を語る』という邦題で近刊(2022年5月)の予定である。これにも踏み込んだ分析が添えられる。 コロナウィルス感染状況が長引くなか、海外の研究者との直接的交流は叶わなかったが、 中地は2021年10月にオンライン形式で開催された中国・南京大学主催の国際シンポジウム「翻訳と文化の伝達」に参加し、フランス詩の邦訳の問題を論じた。これには、昨年、中国詩のアンソロジー・評論『詩の波は流れ続ける』(本邦未訳)を出したル・クレジオ氏自身も参加し、リモートではあるが直接議論を交わす機会を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文学研究が書かれたものを根拠とする以上、研究対象である存命の作家が小説、評論、講演集といった書物の形で自らのアジアとの関わりを近年次々と公にしていることは、本研究にとってきわめて有利な条件をもたらしてくれている。これらの作品を通じて、従来不分明であった作家のアジアへの関心のありようが相当程度明確になってきた。また、この研究を通じて、作家が若いころよりなぜ中米インディオの文化や生活に強い関心を寄せてきたかを解く一つの鍵が得られるのではないかという見通しも開けてきた。その意味で本研究は、ル・クレジオ文学の基盤をなす精神世界のありようの解明に通じる拡がりをもちうるという確信を強めているところである。以上の理由により、おおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
ル・クレジオ氏は2018年に東京大学で行なった講演「詩の魅力」で、時間軸も文化の壁も軽々と乗り越えて古今東西の詩を縦横に論じたが、そこで扱われた詩を含む中国詩のアンソロジーおよび解説である『詩の波は流れ続ける』を昨年刊行した。この詞華集を集中的に検討することで、中国語を母語とせず、もっぱら英訳・仏訳で中国の古典詩・近代詩を読んできた作家が、異なる言語文化圏の詩をどのように咀嚼しているか、また漢詩や俳句の何が彼を魅了するのかについて、踏み込んだ検討を行なう。 コロナウィルス感染状況の今後の成り行きにもよるが、同一ないし類似の研究課題を掲げている中国、韓国の研究者・翻訳家と研究交流の機会をもち、作家のアジアへの傾倒について議論を交わしたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
注文書籍の到着が遅れたため、予算執行が次年度に持ち越された。
|
Research Products
(19 results)