2020 Fiscal Year Research-status Report
Considerations, from the Perspective of Translation Studies, Regarding the History of German Translation Theories and Its Relationship to the History of German Thought
Project/Area Number |
20K00466
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
山口 裕之 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40244628)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドイツ翻訳思想 / 翻訳理論 / トランスレーション・スタディーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ドイツ翻訳思想の展開の位置づけに対して、トランスレーション・スタディーズにおける翻訳の文化的力学の視点から再構築を試みるものである。ドイツの翻訳史・翻訳思想史を特徴づけるものとして、読者にとっての自然さを志向する翻訳戦略から意図的に離反する翻訳実践・翻訳思想が存在し、それが複数の思想家たちによって受け継がれているということが、これまでの研究でも一般的に認識されている。こういった特質は、文化的に非対称的な力学の中での翻訳に固有な現象として新たに位置づけることができるというのが本研究の出発点である。 そしてまた、近代化の過程で、ドイツ文化の受容が決定的な重要性をもつことになった日本にとって、同じく非対称的な構図のなかで西洋の文化・言語を取り入れてきたという事情は、日本における翻訳実践・翻訳思想史の特殊性を考察するうえでもきわめて大きな意味をもつものとなる。 本研究は、複数の言語圏にかかわる翻訳思想史の共同研究へと結びついてゆく性格をもつものであり、初年度の研究では、そのような研究の土台となる部分を明確に提示することが最初に必要であるため、その研究に力を注ぐことになった。その成果としてまとめられたものが、論文「異質な言語との関係――ドイツと日本の翻訳思想 翻訳における複合的な非対称的力学のための序論的考察」、『総合文化研究』第24号(東京外国語大学総合文化研究所)、2021年2月16日、77-91頁、である。 また、多和田葉子をめぐる論考(その編者)と翻訳を発表し、ベンヤミンの思想研究の著作(単著)を刊行したが、これらは、この翻訳思想研究のバックグラウンドがあったからこそ生み出されたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度となる2020年度は、複数の言語圏にかかわる翻訳思想史の共同研究へと結びついてゆくものとして、そのような研究の土台となる部分を明確に提示することをとくに意識した。論文「異質な言語との関係――ドイツと日本の翻訳思想 翻訳における複合的な非対称的力学のための序論的考察」、『総合文化研究』第24号(東京外国語大学総合文化研究所)、2021年2月16日、77-91頁は、その成果である。 当初の研究計画では、2020年度は 、①理論的前提となる翻訳研究内でのドイツ翻訳思想史と「異化的翻訳」をめぐる言説の整理・分析と、②対象とする翻訳・言語思想に関わるテクストの整理に主に取り組む、ということを想定していたが、上記の論文では、これらの論点の一部の整理をしているものの、まだ個々のテクストの分析の内部に踏み込むところまではいっていない。これについては、2021年度の作業になる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が行おうとしていることは、トランスレーション・スタディーズによって提起された、翻訳における文化的力学の視点から、ドイツの翻訳思想の展開を再構築することと約言できる。そのことをひとまずの到達点として、本研究は3年間の研究期間において全体としては、(a) ドイツ翻訳思想のテクスト分析と、(b) トランスレーション・スタディーズにおける理論的連関の分析、という二つの軸に添いつつ、これらを交差させて考察を進めてゆく。 この研究の延長上には、とりわけ日本の翻訳史の状況とドイツ翻訳思想史の二重構造の関係の分析を見据えているが、本研究そのものの到達点はドイツ翻訳思想史の再構築にある。研究は、テクスト分析(ドイツ翻訳思想、および翻訳研究に関わる理論的テクスト)を中心に据えながら、研究者との情報・意見交換、研究交流を通じて進めてゆく。 2021年度については、2020年度での研究の土台に基づいて、本研究の視点から、ドイツ語圏の翻訳思想にかかわる個別テクストの分析を行う。その際、主に③18世紀後半から19世紀中葉にかけての 翻訳・言語思想に焦点を当て、とりわけ後進性に対する意識とその裏返しとしてのドイツ的特質の優越性の強調というナショナリズム的コンテクストから、「異化的翻訳」に関わる文化的・政治的力学のうちに浮かび上がる特質を可視化してゆきたい
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Causes of Carryover |
コロナ禍の状況のなかで、当初想定していた海外出張による研究調査がまったくできなかった。それに変えて、オンラインに集中した研究にとって必要な機器を充実させ、文献の収集に力を入れることになったが、それでも予定していた全額を期間内に執行することには、少し無理があり、また有効でもないと思われたため、このような結果となった。
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Research Products
(4 results)