2022 Fiscal Year Research-status Report
近代フランスにおける中世キリスト教美術受容とテクスト:宗教・科学・文学
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20K00467
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加藤 靖恵 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (90313725)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近代フランス文学 / 中世キリスト教美術 / 偶像崇拝 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀後半のフランス文学におけるキリスト教の宗教空間(教会,カテドラル,祭儀)の位置づけと,ゴシック・リヴァイヴァル運動と関連する美術史研究者の言説の影響について,調査を継続し,プルーストを中心とする論考を国内の学術雑誌に発表した。 また, 19世紀後半の静物画ジャンルの隆盛(特にシャルダンの見直し)をめぐる,美術評論と文学作品における描写への影響について,政教分離や産業革命による物質主義がもたらす宗教観の変遷との関連の調査を続行した。特に1月にルーブル博物館で行われた静物画に関する展覧会にて資料収集をおこない,考察の一部を国際的学術雑誌に投稿する準備を始めた。静物画に関する文学や美術評論における供儀の比喩,また宗教儀礼における物質性についての分析と考察を引き続き行う。 さらに,偶像崇拝という用語が,中世以降の宗教テクストでどのように使用されているか,具体例を収集するため,9月と1月にフランス国立図書館で文献調査を行った。調査結果の一部は,編集作業中の共著『フランスにおけるラスキン:大聖堂からプルーストへ』に加筆をし,2024年度中にフランスの出版社より出版するため,入稿の直前作業を進めた。 宗教観の変遷を辿る上で,近代フランスの自然観の移行についての考察が必要であるという発想を得て,まずは風景論に関する先行研究の調査を中心に次年度の研究準備にとりかかった。近代の自然科学の発展とキリスト教の影響力の低下の連関を表す具体的な事例の収集と分類を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度1月以前にフランスとイギリスで収集した資料の整理を継続しつつ,査読付学術雑誌の論文と,2024年度にフランスから出版される共著の新たな章を執筆したが,予定していた海外調査の再開が遅れたことが,進捗状況に支障をもたらしている。勤務大学では,令和4年度になって,条件つきで渡航が認められるようになったものの,9月は制約も多く,十分な滞在期間を確保することができなかった。その中で,フランス国立図書館を中心に資料の収集をおこなった。1月は,パリで研究に関連する展覧会での資料収集とプルーストに関する研究集会にも出席し,情報収集を効果的に行えたものの,学期中で10日間しか滞在期間を確保することができなかった。その上,フランスは政治的デモの影響が大きく,滞在期間中に国立図書館が2日間ストで閉鎖されるというアクシデントもあり,調査に支障があった。同様の理由で調査のためのイギリスへの移動もできなかった。さらに,当初は2,3月にもフランスとイギリスで調査と未刊行の図像資料の収集をする予定だったが,日本国内での業務のために実行することがかなわなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,宗教と物質性の関係について,勤務する名古屋大学人文学研究かの附属人類文化遺産テクスト学研究センターからの情報提供を受けながら,昨年度に引き続き,19世紀の静物画という絵画ジャンルの見直しと関連付けて,考察を続ける。植物(花,果物,野菜等の静物)の絵画・文学的表象に軸をおきつつ,19世紀における自然観・生命観の変遷と,宗教の失墜と科学の隆盛について,さらに資料収集を続ける。7月のフランスでの国際学会(プルーストと風景)で,その成果の一部を口頭発表するとともに,情報と意見交換を行い,研究のあらたな方向づけを探る。資料収集と研究打ち合わせのために,パリの国立近代草稿研究所,国立図書館,エミール・マール草稿を所蔵する学士院図書館,北フランスの教会と附属資料館,およびイギリスのランカスターのラスキン博物館を中心に,未刊の草稿・図像資料の閲覧・分析・写真撮影のための数回の調査旅行を行い,研究課題の集大成を目指す。
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Causes of Carryover |
海外調査に重点をおいた研究計画にもかかわらず,コロナ禍の影響で計画通りに旅費を執行できなかった。規制も緩和したため,次年度は最低2回,可能であれば4回のフランスとイギリス滞在を行い,国際会議での発表,資料収集,共同研究の準備と成果出版のための打ち合わせを行う。ウクライナ戦争の影響もあり,航空運賃やヨーロッパでの滞在費が高騰しており,効率的に執行することができる見込みである。
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Research Products
(1 results)