2021 Fiscal Year Research-status Report
The Concept of 'kalos' in the age of Greek Tragedy
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20K00468
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉武 純夫 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (70254729)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カロス / アガトス / ギリシア悲劇 / カコス |
Outline of Annual Research Achievements |
ギリシア悲劇では、<アガトス(「よい」などの意)という形容詞とその派生語>に対する<カロス(「美しい」などの意)という形容詞とその派生語>の使用比率が、同時代のギリシア文学の他ジャンルにおけるよりも顕著に高い、という現状とその理由を引き続き探った。まず気の付いたことは、『オレステイア三部作』では、カロスの語は3作ともに現れるが、アガトスの語はその第2作では現れず、第3作では復讐の怨念が解消する後半にのみ現れるということである。このことから、カロスの使用比率が高いということは、必ずしも特定のジャンルや状況にカロスという語がなじみやすいからだけではなく、アガトスという語がなじみにくいからであるという可能性も見えてきた。 アガトスの語は述語的に用いられることは殆どないし、否定を伴って用いられることも殆どない(アガトスが否定されるようなときはカコス(「悪い」などの意)の語が好んで用いられる)。それゆえ、アガトスの語は大抵、確定的・安定的に望ましい状態にあるモノやコトを表すために用いられる。それは根本的・普遍的なよさが公認されるようなものを表すことが多い。それに対し、カロスの語は、一面的な好ましさやよさを表すことが少なくない。またカロスは否定を伴う形で全面的な否定を表すこともある。それゆえ、この語はしばしば変転する状況や刹那的な事態の好ましさ(や拙さ)を表すための恰好の語である。 以上のことから、主として不安定な状況を描く悲劇においては、カロスの語を用いるべき事例にはこと欠かずとも、いっぽうアガトスの語を用いるべき事例は多くない、という仮説が導かれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究の初年度にカロスとアガトスの全例調査で得られた分析結果が、さらに何を意味し、それぞれの作品解釈にどのような影響を与え、またギリシア悲劇全体とどのように関係しているのかということを考察し、一定の結論を得ることができた。 海外での研究打ち合わせはもとより、国内での出張も、伝染病蔓延のため実施することができなかったが、出張なしでも研究は進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に得られた仮説を個々のギリシア悲劇において検証することが、次年度の最大の課題である。特にアガトスの語の使用が多い作品と少ない作品を比較しそのわけを考える、また、カロスの語の使用が多い作品と少ない作品を比較しそのわけを考える、ということに重点を置く。 またカロスという語の根本的性格をさらに考究する。たしかに、移り行くものをカロスと修飾するときは、一瞬の評価として用いられることもあるが、刹那的・主観的な評価ばかりがこの語の意味するところではない。例えば人をカロスと修飾する場合は、恒常的な有様に対する客観的な評価を表している場合が少なくない。それが刹那的・主観的評価とつながる接点を探る。 それらのことをあわせて、悲劇以外の5世紀の文物にも視野を広げて、カロスの語がアガトスとともにどのように用いられていたかを総合的に検証する。
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Causes of Carryover |
本年度は、感染症蔓延のため、出張ができず予算の使用計画が大幅に狂ってしまい、研究のために必要となる図書・物品ばかりを購入したが端数が出て僅かな額が残ってしまった。この額は次年度の消耗品費に充てることになる。
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Research Products
(2 results)