2022 Fiscal Year Annual Research Report
The Concept of 'kalos' in the age of Greek Tragedy
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20K00468
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉武 純夫 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (70254729)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カロス / カロース / ギリシア悲劇 / ホメロス |
Outline of Annual Research Achievements |
アガトスとカロスの関係については、昨年度ある程度まで解明できたので、この1年はカロスの語の調査に集中した。ホメロス叙事詩と現存悲劇のカロス語の全用例について、それが修飾している対象を明らかにし、それを<神・人>や<モノ>や<コト>や<動詞>などに分類して一覧できるようにして、カロスの語がどんな対象にどれだけ適用されているかを作家ごとに把握した。 まず、ホメロスと悲劇の間において、カロスの語の使われ方に顕著な違いが観察された。最大の違いは、ホメロスにおいては大多数を占めていた<神・人>や<モノ>への適用が、悲劇においては(エウリピデスを除き)非常に少なくなっており、かわりに<コト>への適用が大半を占めるようになっていることである。特に副詞(カロース等)の形で動詞を修飾するケースが見られるようになり、エウリピデスでは夥しい数に上っている。カロスの語が担う意味としては、単純に感性的に好ましいという評価と、何らかの基準を念頭に「~として似つかわしい(妥当)」という評価とが、必ずしも独立しているのではなく、対象によって異なる比重で混じり合っていることが多いということが重要であり、ホメロスからの変化でもある。感銘や倫理性ばかりでなく、損得も含めた好ましさの総合的判断を表す場合も見られる。そしてエウリピデスでは醜聞や流血にも適用されるなど途方もない転用も散見されるが、それにもそれなりの理由が考えられた。 本研究全体の目的の一つは、カロスの語が悲劇で好まれた理由を探ることであったが、その主要な理由として見出されたのは、一々の動作を修飾する副詞的用例に代表されるように刹那的状況に対する評価として、また劇中の諸事態に対して感性を交えた咄嗟の評価として使いやすい語となっていたからであった、と結論することができそうである。
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