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2023 Fiscal Year Annual Research Report

ムージルの〈遙かな愛〉の精神史的系譜

Research Project

Project/Area Number 20K00469
Research InstitutionKyoto University

Principal Investigator

大川 勇  京都大学, 人間・環境学研究科, 名誉教授 (10194086)

Project Period (FY) 2020-04-01 – 2024-03-31
Keywordsムージル / 兄妹愛 / トルバドゥール / 遙かな愛
Outline of Annual Research Achievements

本研究は、従来近親相姦の有無を軸に論じられてきたムージルの『特性のない男』研究に新たな視点を導入し、トルバドゥールに由来する〈遙かな愛〉の視点から『特性のない男』における愛の問題を解明しようとするものである。
当初の計画では、第一巻の〈少佐夫人の物語〉から第二巻の兄妹愛まで、『特性のない男』における愛のかたちを一貫して〈遙かな愛〉の視点から読み解くはずであった。だが、〈遙かな愛〉の精神性は〈少佐夫人の物語〉を解釈するには有効であったものの、遺稿部を含む第二巻の諸章から読みとられる濃密な官能性は、兄妹愛をたんに「精神的な愛」として解釈することを許さなかった。そこに見られる、性愛をも排除しない高次の精神性に支えられて、『特性のない男』は世界文学に類をみない「精神的かつ肉体的な」愛のかたちを追求する小説に発展していくのである。『特性のない男』を愛のテーマに即して読む試みは、従来指摘されてきた第一巻と第二巻とのあいだに横たわる断絶の問題にも新たな解釈を提示してくれた。第一巻のウルリッヒは「正しい生」を求めて様々なユートピア探究に乗り出すが、目的を果たせぬまま第二巻でアガーテと出会い、愛のユートピアへと向かう。つまり、第二巻においてウルリッヒは「正しい生」の特殊形態としての「正しい愛」の探究に乗り出すのであり、そこに断絶と呼べるものはない。愛の問題がたえず神秘主義の言説との関連で語られ、モラルの問題として考察されるのは、そのためである。
以上のことから、『特性のない男』を近親相姦の物語として読む、ルージュモンをはじめとするこれまでの試みは斥けられる。兄妹愛に「精神的な愛」を読もうとした当初の目論見は修正を余儀なくされたものの、性愛の可能性を含む高次の精神性を兄妹愛のうちに見出した本研究は、近親相姦の有無を軸に論じられてきた従来の読み方に再考を促すものとなろう。

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Published: 2024-12-25  

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