2023 Fiscal Year Research-status Report
Restoring memory in modern Spanish novels: a study of post-conflict literature in Spain, Chile and Peru.
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20K00470
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松本 健二 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 教授 (00283838)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ラテンアメリカ文学 / チリ / トラウマ的記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はチリ文学に絞り、ロベルト・ボラーニョ『チリ夜想曲』に見られる当事者性という問題意識を軸に、それがボラーニョ以降に独裁期をテーマにした文学においてどのように展開しているかを比較考察してきた。たとえばノナ・フェルナンデスのように一人称の語り手を介したエッセイ調の小説『異次元』では作家自身が幼少期に見聞した事件を現代において回想し、それをチリのいまと結びつけるという手法を採用するいっぽう、作者自身が初版を大幅に書き改めた『マポチョ川』においては、独立以降のチリ史のなかに軍政時代を位置づけるという相対化に着手する作家もいる。いっぽうアレハンドロ・サンブラ流のインティミットな小説世界を得意とするディエゴ・スニガのような作家は、作家自身の個人史や最新作『チャンピオンたちの地』のように実在した潜水夫をモデルとする小説においても1973年のクーデターやその後に起きた様々な人権侵害の遺構や記憶を物語内に取り込み、人物たちの私的な物語がより大きな記憶構築のメカニズムと切り離せない状況を描いていることが分かる。軍政期にあってはチリで現実に進行している出来事へどのように作家自身がコミットするかが文学の主題と化しがちであったが、書き手の世代が変わるにつれてそうした過去の記憶を「いかにして物語化するか」が主題そのものと化し、ルポルタージュ風に事実を羅列していくのではなく私的な物語、個人の小さな物語を歴史として公的に記録されてゆく大きな国家レベルの物語に接続するための様々な工夫が多くの作品にうかがえることが分かった。また3月12日~21日の日程でサンティアゴに出張し、資料調査を実施するとともに上記スニガ氏に聞き取り調査を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度までの進捗状況に遅れが重なっており、それを解消するに至っていないこと、また研究結果を論文等の成果として公表するに至っていないことが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
概ね研究計画に沿って進めていくが、特にスペイン文学とペルー文学に関するじゅうぶんな資料調査ができていない状況で成果を論文化することは不可能なので、まずはスペインとペルーに絞って情報整理を行ない、どのような作品に焦点を当ててどこまでを考察するのかを9月までに決定し、そのうえで必要な資料は現地で調達し、10月以降はそれらをもとにした研究成果を論文化することを目指す。
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