2022 Fiscal Year Research-status Report
Sartre's Development of Moral Theory and <Russell tribunal>
Project/Area Number |
20K00471
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
南 コニー 金沢大学, 国際機構, 准教授 (10623811)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | サルトル / キルケゴール / 状況演劇 / 反復 |
Outline of Annual Research Achievements |
サルトルは状況演劇という演繹的方法で、キルケゴールが創始した実存主義思想を大衆と共有したことで知られている。それは、戦争や貧困、階級や時代によって条件づけられた状況下の人間が感じる葛藤や疎外感を表現するとともに、それらへの抵抗を通して人間の在り方を問う一つの<呼びかけ>である。人間の自由意志と選択の問題を扱う状況演劇は1950年代頃から盛んに上演され、日本でも唐十郎や大江健三郎などの作家に大きな影響を与えた。とりわけ『出口なし』(1944)は、今日でも世界中で上演され続けている。それは不条理な状況が解消されていないからに他ならない。世代を超えて上演され、人々に生き方や在り方を問うこのような状況演劇は、キルケゴールにおける「反復」であるとサルトルは言う。「反復」は物事の傍観者ではなく、状況の当事者であることを求める。かつてサルトルはベトナム戦争におけるアメリカの戦争犯罪を糾弾するために民衆法廷を創始したが、世界各国から「茶番劇」だとの非難を浴びた。しかし、最終的には三度の開廷を経て戦争犯罪を暴き、民衆法廷を常設化するに至った。この過程で彼は、客観的な知を拠り所にするのではなく、「真理を生成する」ことが重要であると述べている。ここでいう真理とはキルケゴールにおける主体的な「非―真理」であり、自らへの問いかけにより各々が自分に立ち戻ることで生成されうる。当事者として状況を生きることで初めて可能になるのである。サルトルは「キルケゴールを読むことによって、私は私にまで遡り、私はこの意味するものをとらえたいと思う。私がとらえるのは、私である。非―概念的なこの著作は、全ての概念の泉として、私を理解するための一つの誘いである」(『生けるキルケゴール』)と言う。本研究では、サルトルの状況演劇とキルケゴールにおける「反復」の関係性について考察したい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のせいで、当初予定していたフランスや北欧諸国での資料収集はできなかったが、すでに収集をし終えている文献の解読を通して、中心のテーマとなるサルトルの後期思想ばかりでなく、それを手掛かりとしたイプセンの『人形の家』の分析や、ジェンダー思想の展開にも研究を展開し、それぞれにおいて成果をまとめることができたので、おおむね順調に研究計画が進んでいると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナの状況が改善されているので、近いうちにヨーロッパへの渡航計画を立て、資料収集に向かうとともに、すでに入手済みの資料をさらに研究して論文の執筆を進める所存である。
|
Causes of Carryover |
助成額に残が生じた原因は、ひとえにコロナ禍により予定していたフランスや北ヨーロッパの国立図書館に出張ができなかったことにあります。現在、衛生状態が改善されつつありますので、早急に渡航計画を立てて、予算の執行に努めたいと思います。
|