2023 Fiscal Year Research-status Report
Sartre's Development of Moral Theory and <Russell tribunal>
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20K00471
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
南 コニー 金沢大学, 国際学系, 准教授 (10623811)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | サルトル / ラッセル法廷 / グローバル・ジャスティス / キルケゴール / 単独的普遍 / ジェンダー・イコーリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
ジャン=ポール・サルトルがその晩年のモラル論の中で提起した「単独的普遍」が如何にして「ラッセル法廷」(「ラッセル=サルトル法廷」とも称される)という民衆法廷へと展開していったのか、その過程を読み解きつつ、現代的意義と今後の可能性を探ろうとするのが本研究の課題である。2017 年に50周年を迎えた「ラッセル法廷」は、1967年、ベトナム戦争の犯罪性を訴えるバートランド・ラッセルとサルトルの両者によって、ストックホルム、東京、ロスキレ(デンマーク)の3都市で開催され、世界的に大きな反響を呼び起こしたが、このような民衆法廷は今日もなお、国際格差の是正を求める「グローバル・ジャスティス」(トーマス・ポッゲ)の動きと連動して世界中で開催されている。この「単独的普遍」の主題は、サルトルの『生けるキルケゴール』ばかりでなく、『方法の問題』やその続編とも考えられる『弁証法的理性批判』でも取り上げられているし、フローベール論『家の馬鹿息子』においては重要な読解コードのひとつともなっている。この「単独的普遍」という両義的な概念をその発想源となったキルケゴールにまで遡り、その概念の有する豊かな広がりを理解することこそが、とりわけ後期サルトルのさまざまな問題点を解く鍵であり、そのアンガージュマンをより深く掘り下げた観点から捉え直すことを可能にする手立てであると確信しつつ、とりわけデンマーク語とフランス語の原資料にあたりながら、この哲学的概念がいかにして社会的現実へと移行していくのかという実現の過程に焦点を当てた考察を推し進めてきた。議論の中心となったのは次の5点である。 ①個々人における能動性と「分有」 (partage) の問題、②社会的分子としての「単独的普遍」の可能性、③個人におけるモラルの限界と創造行為、④自由の自律と自己超出性、 ⑤共同存在としての社会参加。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のせいもあって、予定していた海外での資料収集はできなかったが、この間、サルトルのラッセル法廷関連の論文ばかりでなく、その展開として、イプセンの作品をもとにジェンダー・イコーリティーに関する論文も執筆し発表することができた。またこの間、世界中の研究者たちとの情報交換などは休むことなく続けていたので、当初予定していた目標の達成はじゅうぶん可能と考えている。コロナの危険も少し遠のいたので、今年度中に海外での資料収集を再開し、より完全な形で論考を仕上げたいと思っている。
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Strategy for Future Research Activity |
フランスならびにデンマーク、スウェーデンなどでの資料収集を再開し、それらを整理、考察することで、サルトルと「ラッセル法廷」に関わる考察の集大成を図りたい。また、日本フランス語フランス文学会やサルトル研究会やキェルケゴール研究会などでの発表などを通して、研究成果を公表するとともに、その精密化を目指したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍が続いたため当初予定していたフランスや北欧諸国への資料収集は断念せざるをえなかったので、計上していた予算を使用することができなかった。現在、コロナの危険も弱まってきたので、今年度中に海外出張を再開るし、それにともなう物品の購入も行う予定である。
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