2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K00475
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
井上 暁子 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (20599469)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国境地帯 / 地域 / 間テクスト性 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍により海外渡航が叶わず、資料収集ができなかった。また、モントリオールで開催されるはずだった国際学会も2021年度へ先送りとなったため、学会発表もできなかった。 こうした理由から、2020年度の研究成果は当初予定していた内容とは異なるものとなった。しかし、シレジア同様、多民族・多言語・多文化社会であったバルト海沿岸の町グダンスク(ドイツ名:ダンツィヒ)を例に、社会主義末期から冷戦終結直後のポーランドで起こった「地域アイデンティティの再興」ブームと、そこで文学が果たした役割について論じる機会を得た。具体的には以下の通りである。 1)「ギュンター・グラスのポーランドにおける受容」について活字化 『ポーランドの歴史を知るための55章』(渡辺克義編、明石書店)で同タイトルの章を担当した。戦後の西ドイツを代表し、のちにノーベル文学賞を受賞したグラスの世界観や、彼が故郷ダンツィヒ(ポーランド名:グダンスク)を舞台に書いた小説群は、社会主義ポーランドの反体制派知識人により肯定的に受容された。民族・言語・文化をまたぐ知的なつながりが、1980年代末から90年代のポーランドにおける「地域アイデンティティの再興」ブームの後押しとなったと解説した。 2)グダンスク出身のポーランド語作家パヴェウ・ヒュレの代表作『ヴァイゼル・ダヴィデク』(松籟社)の翻訳と「あとがき」の執筆 現代ポーランドを代表するヒュレは、ギュンター・グラス同様、今日「世界文学」に数えられる作家である。「ドイツ=ポーランド国境地帯」の一都市を、政治的、社会的、歴史的に絶え間なく分断された地域として複眼的かつ多層的に描いた作品としてのみならず、個人の知覚や認識の有限性を見定めつつ文学的時空間として地域を表象した作品として評した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍で海外渡航が叶わず、インターネットで入手可能なシレジア関連書籍は限られるため、本研究課題の進捗はやや遅れている。また、国際学会でパネルを組むことになっていたシレジア研究の第一人者である外国人研究者の都合で、Zoomによる学術イベントは保留とし、メールなどの通信手段による意見交換を続けることになった。研究計画を若干修正し、これまでの研究成果と関連づけることに重点を置いた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで発表した論文と移民文学について論じた博士論文をベースに、単著の執筆に全力を注ぎ、シレジアを含む、ドイツ=ポーランド国境地帯の文学を論じる際の枠組みを提示する。また、自然・文化環境、間テクスト性などに着眼して、日本にいながら行うことのできる研究・調査を続ける。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で国際学会に参加できず、研究会もZoomによる開催となったため国内出張費もかからなかった。 2021年度も基本的には海外渡航は見合わせるが、パソコンを含む電子機器の購入、国内における資料収集、翻訳チェックを依頼するポーランド語母語話者への謝金が発生すると予想されるため、60万円を請求した。
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