2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20K00475
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
井上 暁子 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (20599469)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | トランジット性 / 移動 / 空間表象 / 地詩学 / 引き揚げ / ミクロヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のメインテーマである「シレジアのトランジット性」は、「シレジア外部」から訪れる移動者のまなざしに負うところが多く、ドイツ語圏/ポーランド語圏のいずれにおいても、少なからずコロニアルな性格を帯びている。 今年度の調査により、各言語文化圏における「シレジアをめぐる移動の目的や種類」がある程度見えてきた。また、ドイツ語文化圏では銅版画によるシレジアの絵葉書が流通し、大衆文化や旅行熱との関係が垣間見られた。両世界大戦間期に書かれたポーランド語の紀行エッセイは、同時代のシレジアの民族対立との関係や、特定の作家の創作活動における位置づけといった個別な観点から検討することは可能だが、素朴な実録的テキストであることは否めなかった。概して20世紀は「血と大地」や社会主義リアリズムの影響が強く、都市部/炭坑、ないし農村/炭坑を決定的に分割する定住者中心主義、もしくは、労働力・資本を掌握する人々によるコロニアルな空間表象がめだった。 しかし、第二次世界大戦後の旧ポーランド東部領からの引き揚げ者の文学のような例外もあり、その中で用いられた空間表象の手法は、1980年代以降のシレジア表象(ノーベル賞作家オルガ・トカルチュクのような国際的に流通した例を含む)の様々なバリエーションにつながった可能性がある、という結論に至った。「「非・場所」としての空間論(ソジャ)から地理的関心の回帰へ」という動向(E.Rybicka『地詩学』、2000)に照らしながら、トランジット空間に残された人・もの・場所をめぐるミクロヒストリーに依拠した空間表象の手法について検討する必要性が明らかになった。最終年度は、この成果について基盤Bの研究会で報告したほか、北大スラブ・ユーラシア研究センターの単年のプロジェクト費を獲得し、次年度の研究につなげた。
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