2020 Fiscal Year Research-status Report
Subjective Narratives in the Era of Disaster-A Cross-disciplinary Study of Narratives, Observations, and Memories
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20K00476
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Research Institution | Miyagi Gakuin Women's University |
Principal Investigator |
間瀬 幸江 宮城学院女子大学, 一般教育部, 准教授 (20339724)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
國枝 孝弘 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 教授 (70286623)
安部 芳絵 工学院大学, 教育推進機構(公私立大学の部局等), 准教授 (90386574)
越門 勝彦 明治大学, 法学部, 専任准教授 (80565391)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 声の主体 / 災い / 記憶と記録 / 美化 / 文学 / 聴くこと |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、文学作品や古文書等に書き記された語りの生成と、災いの時代となった現代を生きる当事者の語りの生成との結節点である「声の主体」とそれを支える構造とを、言語化・理論化することを目的とする。手法として当初は、研究代表者の専門領域(人文学)鑑み文学研究に軸足を定めつつ、被災地を生きる人々とその支援団体等のヒアリング調査を通して、社会学領域へと架橋し研究領域のすそ野を広げる想定であった。しかしコロナ禍にあって2020年度は出張調査を実施できなかったため、方法を一部変更して研究活動を行った。その概要は次の三点に集約される。 第一に、本研究推進母体組織として、専門領域の異なる分担者、協力者の横の連携を目的とした「声の主体による文化・社会構築研究会」(通称:「声のつながり研究会」)を正式に活動基盤に据え、その上で6月に小規模研究会の「声のあつまり」(発表者:菊池勇夫)を、9月には研究発表会(発表者:間瀬幸江、國枝孝弘、安部芳絵)を、それぞれ開催した。第二に、出張を伴うヒアリング調査の積極的な代替手段としての、ラジオ番組制作である。仙台コミュニティFMラジオ3の番組「時間泥棒大学」の一コーナーとして、ラジオ番組版の「声のあつまり」を、間瀬、國枝、安部が本研究の主旨に則って運営した。この実践の成果は、2021年4月から始まった後続番組「声のつながり大学」の企画運営に結実している。当初ヒアリングを予定していた被災地の子ども支援団体等の関係者と、2021年度の番組制作で協働することも決定した。第三に、以上の研究成果の公開媒体としての研究会公式ウエブサイトkoenotsunagari.comの制作である。研究会の実施報告、放送終了後のラジオ番組アーカイブなどがここに蓄積される。サイトの運営は、声の主体から声を奪わない仕組みと、声を記録することとの連関を、メタ的に実践研究する場を兼ねる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究推進母体となる「声の主体による文化・社会構築研究会」が本格始動したことにより、人文学領域の研究者と社会学領域の研究者による意見交換の場が拓かれた。領域横断研究の遂行にとって重要な基盤である。また、代表者が仙台に在住する一方、分担者、協力者の居住地が国内複数箇所にわたっていることから、研究会はオンラインあるいは感染防止対策措置をこうじての対面実施の両方の仕組みを整えるなど、開催方法の複数の選択肢を持つ必要があった。こうした柔軟性維持のための機材等の購入も概ね初年度に済ませることができた。また、分担者の安部が日本教育学会第79回大会(8月24日開催)にて「災いの時間と子どもの声―セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン2020年春・緊急子どもアンケートを例に―」と題して行った口頭発表は、本研究会での議論の成果の一つである。 研究成果公開のための専用サイトは、2020年秋に始動、運用のなかで微調整を行い、2020年度末にはほぼレイアウトや機能等が確定した。また、領域横断研究であり、「声」が美化や消費から逃れ抗うための「声」の記録のありかたを探る本研究の起点を、イメージ画像としても記録する意図で、ロゴマークを策定することもできた。 ただし、対面でのヒアリング調査に代えてラジオ番組制作と番組音源アーカイブ制作を行う件は、2020年度は、番組作りの実践(2020年度の研究成果として本報告書に記載)を通してその枠組みの整備を終えたところであり、この方法が、対面・出張による調査活動の成果にいかに匹敵しうるかは、2021年度の番組制作実践を経て判断する必要がある。また、間瀬、國枝は当初の予定ではフランスへの資料調査を予定していたが、コロナの収束状況次第で、これを実施できるかは未定である。以上二点のために、進捗研究は当初の予定の先を行っているとは言えないが、大枠において、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究会組織が機能するようになり、研究会サイトの立ち上げを経て、「声の主体」に係る実践研究とその理論化のための実践と議論を深める。2021年度は、国内出張の実施の代替手段としてのラジオ番組制作に力を入れる一方、「声の主体」をめぐる理論的・領域横断的議論を深めるために、研究会メンバーの専門領域からの発表を持ち寄る研究会を数回持つ。ただし、現地に赴き当事者に直接ヒアリングをして得られる情報量を考えると、ラジオ番組がその代替手段として十全に機能するかは検証が必要であり、また、出張によるヒアリング調査再開の可能性も未定である。さらに、間瀬、國枝、または越門が、海外調査出張ができるかどうかも未定である。感染症拡大が今後いかに収束するかを常ににらみつつ、よりよい選択肢を取ることとしたい。この前提に立っての話であるが、今後、研究会の遠隔開催ならびにラジオ制作が研究活動の中心となる場合は、ラジオという媒体が、本研究の最大の関心事である「声の主体」の理論化にとっていかなる有効性を持つかを、2年ほどかけて積極的に問うていくこととなるであろう。リアルタイムの放送のみならず、その音源アーカイブの公開に伴う、時空間を超えた声の聴かれ方、記録のされ方をみていく。この実践研究を、分担者・参加者の専門領域(文学、歴史学、教育学、言語教育学等)における同じ関心事の諸問題と比較検討することも視野に入れている。
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Causes of Carryover |
代表者が仙台、分担者が東京在住であり、協力者には関西地方在住者も含まれていることから、研究会開催のための旅費を計上していた。また、感染症拡大に伴い、研究会の実施方法についても、状況を睨みながらにならざるを得ず、当初の予定よりも研究会の実施回数を少なくせざるを得なかった。今年度の、物理的な移動を伴う研究会開催が難しいことが明らかになったのは年度途中のことであった。代表者予算がサイト構築と感染症対策のための設備費等に用いられ予算額がすべて執行される一方、一部の分担者予算の執行が抑えられたのはこのためである。
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Remarks |
第7回「声のあつまり」(ラジオ音源)慶應義塾大学國枝孝弘研究会1「臨床と教育」2-3年生4名 https://youtu.be/K19FvHsWGWM
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