2020 Fiscal Year Research-status Report
スペイン内戦後文学の再生にむけてー亡命作家と国内作家の交流の場としての文芸誌
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20K00477
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
丸田 千花子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 准教授 (00548414)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スペイン文学 / 亡命作家 / 文芸誌 / スペイン内戦後文学 / フランコ政権 / 定期刊行物研究 / 書簡 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度の2020年度は、コロナ禍の影響により資料収集のための国外出張を中止にしたこと、また年度前半、国内外の図書館や国外の書店から資料の取り寄せや購入が困難だったことにより研究計画の遂行に遅れがでた。入手できた一次文献-文芸誌Insulaや亡命作家の書簡集-と二次文献の精読と分析を行い、以下の点を明らかにした。 スペイン内戦直後の1940年代を中心に、内戦以前に文学活動を活発に展開していた亡命作家らがスペイン国内外の文学関係者と取り交わした書簡を分析し、両者が内戦後も交流を維持し、国内読者に作品等を紹介する機会を模索していたことを明らかにした。また1946年の創刊時からInsulaは文芸批評の他に、国内外で出版された人文科学、社会科学や自然科学など幅広い学問分野の新刊書や雑誌を紹介したり、国外発刊の雑誌の販売代理を行っていた。このようにInsulaは、知識人や学者の多くが国外に去った内戦後のスペインの学界に貴重な情報を発信する重要な媒体だった。 当時国内で出版されていた文芸誌の中で、特にInsulaが亡命作家らとの繋がりを維持していた背景は、Insulaの出版母体である書籍店の所有者エンリケ・カニートや編集者ホセ・ルイス・カーノが、彼らの古くからの友人であり、内戦後も書簡を定期的に取り交わしていたことに依る。またInsulaに執筆協力していた国内の作家や批評家は国外出張の折、亡命作家らを可能な限り訪問し、編集者の依頼により、寄稿の依頼や出版の可能性を話し合っていたこともわかった。こうした両者の努力の結果、1948年11月号に亡命詩人ホルヘ・ギリェンの特集が組まれ、国内外の作家や批評家が寄稿した。1948年以降、亡命作家の特集や作品紹介が顕著となっていることから、スペイン国内の出版物の検閲事情などにも目を配りながら、その理由と背景について今後明らかにしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染拡大により、2020年度半ばに予定した資料収集のための国外出張を中止としたため、予定していた文芸誌の閲覧と複写がかなわなかった。また国内外の図書館や書店から資料を入手しようとしたが休業等により入手が遅れた。諸機関の業務再開後、国内外の図書館に依頼して複写物を取り寄せているが、通常よりも到着までに時間がかかっている。また全ページを揃えられないこともあるため、引き続き資料の入手に努めている。しかし、2020年度の遅れは5年間の研究計画期間内で十分吸収できると判断しており、研究計画全体に大きな影響を与えるとは考えていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は2020年度の研究計画の遅れを取り戻すと同時に、当初の研究計画を進める。つまり1950年代のスペイン国内の文学動向や亡命作家の作品の国内受容を文芸誌InsulaやPapeles de Son Armadansを通して、また新たに週刊情報誌Destinoを加えて分析する。特に1950年代は、内戦後世代の国内作家らの文学活動が活発化し、作品の紹介や出版が1940年代より増えていくことから、これらの文芸誌における国内作家や彼らの作品の取り扱いを分析していく。また国内の作家と亡命作家との書簡の資料も1940年代よりも多く残っているため、それらの精読を通して亡命作家が国内での作品発表の場を求めて1950年代以降、国内の文学活動に参加していく背景や経緯を明らかにしていく。 2021年度前半も引き続き国外出張が困難であると予想されるため、2020年度と同様、一次文献と二次文献を国内外の機関から取り寄せる、または購入するという対応を取りつつ研究を遂行していく。また国外の図書館が公開している電子アーカイブも利用する。 また2021年度も資料の入手に時間がかかる可能性を考慮しながら研究を進め、入手状況によっては2021年度以降の研究計画を前倒して取り掛かるなど、研究計画全体に遅れが発生しないように臨機応変に対応していく。一方で2020年度の研究成果を2021年度中に発表する準備に努める。 最新の研究動向の情報の入手に関しては、2021年度も2020年度と同様、オンラインで国際学会に参加し、情報収集と意見交換を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染拡大により国外出張ができなかったため、次年度使用が生じた。2021年度内に国外出張費に使用する。また国外出張ができない場合、国内外の諸機関からの資料の複写費や取り寄せ費用、また書籍の購入やオンラインで開催される国際学会への参加費にあてる予定である。
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