2021 Fiscal Year Research-status Report
スペイン内戦後文学の再生にむけてー亡命作家と国内作家の交流の場としての文芸誌
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20K00477
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
丸田 千花子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 准教授 (00548414)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スペイン文学 / 亡命作家 / 文芸誌 / フランコ政権 / 20世紀スペイン / 定期刊行物 / 書簡 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目の2021年度も引き続きコロナ禍の影響により国外出張を中止したため研究計画が終了しなかったものの、2022年度以降の研究の一部を行い、研究全体に遅れがでないようにした。 1.研究計画の通り文芸誌Papeles de Son Armadansの創刊者カミロ・ホセ・セラと亡命作家との間に交わされた書簡を分析した。1950年代以降にセラと作家が交わした通信内容は文芸誌の投稿依頼、原稿校正や出版計画の相談などの事務連絡が主であり、亡命作家が国内の文芸誌に作品を投稿した経緯が明らかになった。また通信内容から、セラが亡命作家に作品の投稿を働きかけ、常時作品を受け付けると伝えていたこと、また亡命作家はセラに作品の送付や新作品の情報提供を行い、母国での作品の出版や紹介をセラに期待していたことがわかった。さらに書簡は、検閲により不許可となった箇所の修正をめぐるセラと亡命作家のやりとりを明らかにしている。先行研究で指摘されている点もあるが、書簡という私的な閉鎖空間の中での意見交換や修正協議の様子が興味深い。検閲の情報がこうしたやりとりから亡命作家側にもたらされたこともわかる。 2.研究計画を前倒し、フランコ政権時代の国内文学の傾向と特徴を改めて精査した。結果、当初の予想以上に内戦直後、定期刊行物が国内文学復興に重要な役割を果たしていたことがわかった。内戦後、多くの作家が亡命したこと、国内作家の育成が遅れたことや海外の翻訳本の大幅な流通により国内文学が低迷した。これを憂慮した一部の知識人が国内文学の立て直しを急務と考え、結果、定期刊行物が新しい作家の作品の掲載の場となり、出版社が文学賞を設立した。また定期刊行物の発行元が出版社を所有していた場合は、雑誌に掲載された作品が後に出版されたこともあった。このように内戦直後、定期刊行物が国内文学界の活性化を促す原動力となっていたことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染拡大により、2020年度に続き2021年度も資料収集のための国外出張を中止にしたため、予定していた資料の収集ができず、研究の進捗にやや遅れが生じた。ただし2022年度は国外出張で資料調査と収集を予定しており、集中的に資料の分析と考察を進め、遅れを取り戻す予定である。 一方、2021年度の研究計画は一部に遅れがでたものの、主要な研究であるセラの書簡集の分析がほぼ終了したことや、2023年度に予定していた計画の一部を遂行できたこともあり、研究計画全体に影響はでてない。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は本研究3年目という折り返しの年となるため、これまでの研究の振り返りを行い、遅れている点をフォローする。特に過去2年間、終了できなかった文芸誌の一部の資料の入手と分析を最重点課題として行う。 2022年度は研究計画通り、1960年代の国内における亡命作家の文化活動、および国内における亡命作家に対する評価をInsulaやPapeles de Son Armadansをはじめとする定期刊行物の批評や書評を通して明らかにする。この時代は経済自由化や対外開放政策、大衆消費社会の出現が特徴的であり、1966年に検閲制度も緩和され、亡命作家が一時帰国や国内での文化活動を始めた時期でもある。このように1940年代や1950年代とかなり異なった社会情勢下で一時帰国した亡命作家の国内活動の状況を調査するとともに、彼らを支援してきた国内の文学者との交流について書簡などをもとに検証する。また亡命作家の作品に対する定期刊行物や出版における扱いの変化について分析を行う。
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Causes of Carryover |
2021年度は新型コロナ感染拡大のために国外出張を中止したことにより次年度使用額が発生した。2022年度は国外出張を予定しているために、2021年度の余剰額を消化する予定である。
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