2020 Fiscal Year Research-status Report
詩人にして『百科全書』の寄稿者、ジャン=フランソワ・ド・サン=ランベール
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20K00478
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井上 櫻子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (10422908)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス文学 / フランス思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、世界的な新型コロナウィルス感染拡大により、当初予定していたようにフランスへ渡航し、フランス国立図書館、および学士院図書館で資料収集を行うことができなかった。しかし、研究成果の発信は意識的に行った。まず、2020年度の前半には、本務校の刊行する紀要『藝文研究』にルソーの自伝に見られる著名性の問題について検討した論文「見ることと見られることー『夢想』における孤独と著名性ー」を発表した。また、2020年12月11日には、研究代表者が所属するフランスの共同研究班『百科全書』電子批評班プロジェクトチーム(以下ENCCRE)の開催するオンラインセミナーにて、サン=ランベールが『百科全書』に寄稿した項目「名誉」の典拠研究に関する成果を発表した(仏語)。研究代表者の調査・考察結果は、サン=ランベールというこれまであまり注目されてこなかった百科全書派の思想家の復権を迫るのみならず、フランスにおけるエルヴェシウスやヒュームの受容のあり方を明らかにするものとして、高く評価された。その成果は、近くフランス科学アカデミーの運営するENCCREサイトに公開予定である。また、2020年度内には刊行されなかったものの、フランス文学史に関する一般向け書籍に、プレヴォーの『マノン・レスコー』およびルソーの『孤独な散歩者の夢想』についての解説を執筆した(本書は『フランス文学の楽しみかた ウェルギリウスからル・クレジオまで』というタイトルでミネルヴァ書房より2021年4月に刊行された)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、新型コロナウィルス感染拡大により、当初予定していたようにフランスに渡航し、フランス国立図書館やフランス学士院図書館で資料収集を行うことができなかった。のみならず、緊急事態宣言発出により、年度の初めには本務校の図書館も自由に使える状況にはなかった。その意味では、特に文献調査の観点において、不測の事態により円滑な研究の遂行がやや困難な状況にあったと言える。しかし、本務校の紀要にルソーにおける著名性の問題についての論文を発表したほか、2020年12月には日本にいながらにしてENCCREのオンラインセミナーで口頭発表を行い、こうした実績を踏まえると、例年に比べてやや不自由な状況ながら、国内外での研究成果発信を実現できたと言える。また、ENCCREセミナーでの口頭発表とその後の質疑応答を通して、サン=ランベールによるエルヴェシウス受容およびヒュームの受容についての研究代表者の見解が妥当なものであることが確認され、2021年度以降の研究の方向性を定めることができた。ENCCREチームのメンバーとは、その後も密に連絡を取り合い、研究の進捗について意見交換を進めている。さらに、プレヴォーの小説『マノン・レスコー』およびルソーの『孤独な散歩者の夢想』についての考察の結果を、一般読者向けの書籍掲載用に準備することもできた。以上のような観点から、本研究課題の進捗状況はおおむね順調であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度前半は、まず、サン=ランベールが『百科全書』に寄稿した項目「名誉」についての典拠研究を完成させ、査読を経た上で、ENCCREサイトを通して公開したい。また、項目「名誉」に関する典拠研究の成果を踏まえながら、サン=ランベールが『百科全書』に寄稿した他の道徳関連項目の考察を進め、その成果を本務校の紀要『藝文研究』への投稿論文や、ENCCREチームの開催するセミナー(オンライン形式が継続されると考えられる)での口頭発表を通して広く国内外に発信していきたい。効率的に研究を進めるために、ENCCREチームのメンバーとは引き続き、密に連絡を取っていく予定である。また、自然描写と人間の感性をめぐるルソーの著作と描写詩との関連についても考察を進め、一般読者向けの論考としてまとめた上で、描写詩というこれまで等閑視されていたジャンルに再び光をあてることの重要性を示したい。さらに、描写詩のみならず18世紀の韻文に注目することで、フランス文学史の書き換え、すなわち「フランスの18世紀は哲学の時代であり、詩的精神は著しく衰退していた」とする定説に修正を迫る可能性について論文にまとめ、フランスで刊行されている学術雑誌『ヨーロッパ韻文雑誌』に投稿したい。なお、フランスへの渡航が可能になった時点で、現地図書館での調査を行いたいが、ウィルス感染状況が好転しない場合は、フランス国立図書館の運営する電子図書館ガリカを活用するなどして、できるかぎり文献研究の精度を高めるように努めたい。
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Causes of Carryover |
当初、フランスへの渡航、および現地での資料収集を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大のため、国外出張ができなくなった。そのため、次年度(2021年度)使用額が生じている。可能な限り、フランスでの資料調査のために使用し、研究の精度を高めたい。
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