2021 Fiscal Year Research-status Report
ヨーロッパ越境文学の新展開―<翻訳者=作者>によるドイツ語文学の変容をめぐる研究
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20K00482
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
新本 史斉 明治大学, 文学部, 専任教授 (80262088)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 越境文学 / 翻訳論 / 多言語性 / 散歩 / スイス / イルマ・ラクーザ / ローベルト・ヴァルザー / 多和田葉子 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍の状況にあって、ヨーロッパに滞在しての翻訳実践と翻訳研究、また翻訳論を専門とする研究者のヨーロッパからの招聘といった当初予定していた国際交流については、残念ながら実施を断念せざるを得なかった。 国内での研究活動としては、明治ドイツ文学会において口頭発表「Poeten - Leben - Darstellen ー ローベルト・ヴァルザーの詩人像をめぐる闘争」を、スイス文学会において口頭発表「仲介者、翻訳者、そして作者 -カール・ゼーリヒの『ローベルト・ヴァルザーとの散策』を翻訳論的視点から読み解く」を行い、伝記作家カール・ゼーリヒによるヴァルザー受容を翻訳論の観点から批判的に論じ、そこでの議論の成果も含めた研究論文「仲介者,読者,そして作者 -カール・ゼーリヒ『ローベルト・ヴァルザーとの散策』を翻訳論的視点から読む-」を明治大学文学部紀要『文芸研究』に執筆した。並行してヴァルザー研究の最新成果が反映された新版『ローベルト・ヴァルザーとの散策』(白水社)を、ドイツ語原書新版、フランス語新訳の刊行に合わせて、日本語に翻訳し刊行した。 さらに越境文学研究については、20世紀前半に構想されたコスモポリタニズムからの差異化という視点から、イルマ・ラクーザ、多和田葉子ら現代越境作家の多言語性を論じた論文「翻訳者たちのヨーロッパへ―ファティ・アキン、多和田葉子における彼方と此方の出会い方」を『文芸研究』の特集号に執筆した。 また、ローベルト・ヴァルザーの翻訳について行った対談企画が、「言葉が踊る幸福感:ヴァルザー文学が持つ『とりとめのなさ』とは何か」と題され、『図書新聞』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、コロナ禍の状況にあって、当初予定していたヨーロッパの文化機関に滞在しての翻訳実践および研究、また翻訳論を専門とする研究者のヨーロッパからの招聘といった国際学術交流は、残念ながら断念せざるを得なかった。翻訳実践については、国内において部分的に進めることができているが、研究者招聘については2023年度以降に実施すべく、交流先研究者および機関との調整を図っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度には、10月にPeter Utzローザンヌ大学名誉教授を明治大学に迎えて、スイスの多言語文学および翻訳論について共同研究会を行う予定である。 また、ローベルト・ヴァルザーについての国際的研究として、ローベルト・ヴァルザー・センター館長Reto Sorgを交えてのオンライン国際シンポジウムの開催を秋季独文学会で予定している。申請が通った場合には、発表者として登壇する。 ヨーロッパ越境文学研究としては、ヘルタ・ミュラーの散文集『いつも同じ雪、いつも同じ叔父』(仮題、三修社刊)を翻訳刊行するとともに、多言語性と全体主義体制の経験が交差する中での詩的言語の誕生を分析する論文を『文芸研究』に執筆する。また、「越境文学」を新たなコスモポリタニズムの可能性として読み解く論考を、年度末に出版予定のコスモポリタニズム論集に寄稿する。 2023年度は本プロジェクトにおける最終年度であるが、ローザンヌ大学文学翻訳研究所所長のIrene Weber Henking教授の調整が難しい場合は、翌年度までのプロジェクト延長も視野に入れて調整を図っていく。
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Causes of Carryover |
2021年度には、ヨーロッパ研究機関での翻訳実践および翻訳研究、ヨーロッパ研究機関からの招聘といった国際交流を実施することができず、また国内での対面開催の学会もなかったために、旅費および謝礼の支出がほとんど生じなかった。これらの国際交流、国際共同研究は、2022年度以降に延期して行うこととし、必要が生じた場合には、プロジェクトの一年間の延長も視野に入れて調整を図る。
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Research Products
(6 results)