2020 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ英雄詩の受容史研究―英雄詩素材の歴史的アクチュアリティ
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20K00491
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 潤 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (50613098)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 英雄叙事詩 / ドイツ文学 / オーストリア文学 / 歴史性 / 受容史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、過去の歴史を伝えるものとみなされていた英雄詩/英雄叙事詩を素材とする作品が受容される際に、どのような歴史構造が遡行的に惹起されるかを、ドイツ語圏の歴史上の様々なフェーズにおいて検証するものである。令和2年度には、本研究の中核の一つをなしている、ロマン主義的中世受容を起点の一つとして19世紀に誕生した新たな学問分野であるゲルマニスティクにおいて、中世英雄叙事詩を手掛かりにどのような文学史が構想されたか、また近代以降中世英雄叙事詩はいかなる歴史的アクチュアリティを持ちえたかという点に着目した研究に着手した。具体的には、19世紀後半、特にオーストリアにおける中世文学研究に多大な影響力を持つこととなったヴィルヘルム・シェーラーの中世文学および中世文化史に関する理解を、『ニーベルンゲンの歌』の成立をめぐる言説の中に検証し、そこにあらわれるケルト=ロマンス語圏とゲルマン=ドイツ語圏の相克という文化史的構図と、その中での中世ドイツ語圏英雄叙事詩の立ち位置を明らかにした。さらに、そうしたシェーラーの文化史・文学史的構想の直接的影響下にあり、20世紀前半のオーストリアにおけるゲルマニスティクに支配的な影響力を持っていたヨーゼフ・ナードラーの文学史における中世英雄叙事詩に関する叙述の変遷を、①第一次世界大戦以前②戦間期③オーストリア併合期④第二次世界大戦後の四つのフェーズにおいて確認した。その結果、ナードラーによる中世英雄叙事詩の文学史・文化史上の位置づけは、現在的状況に応じて刻々と変化し、最終的にその歴史性は捨象される方向に向かったとの仮説を得た。以上の成果を、2021年3月21日行われた「戦後オーストリア文学研究会第2回コロキウムにおいて、「「ドイツ」国民叙事詩?―オーストリア文学史叙述における『ニーベルンゲンの歌』」として口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、新型コロナウィルス感染拡大により、ドイツ・オーストリアへの渡航および同地からの研究者の招聘が不可能な状況であった。そのため、当初予定していたドイツ・オーストリアの図書館での資料調査ができず、国内で入手可能な文献のみを用いての研究を余儀なくされた。その結果、年度内に着手する研究課題の変更と限定を行わざるを得なかったが、19世紀から20世紀半ばまでのゲルマニスティクの文学史叙述における中世英雄叙事詩についての言説分析に関し一定の成果を得た。しかし、文献入手の関係から中世後期における英雄叙事詩の歴史性に関する研究は、現在一時的に中断している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度も引き続き新型コロナウィルス感染症により、当初予定していた文献調査のためのドイツ・オーストリアへの渡航および研究者を招いてのコロキウムの開催の実現に関しては見通しは不透明である。もし今年度後半に状況が好転した場合には、渡欧して文献調査を行う予定である。ただし研究者招聘およびコロキウムの開催は来年度以降に延期せざるを得ない可能性が高い。そのため、今年度は基本的に国内で遂行可能な研究に集中する。 現在の予定としては、まず令和2年度に行った口頭発表を論文化して公開することを予定している。また、引き続き近代以降の英雄叙事詩受容に関しての調査を継続し、口頭発表ないしは論文投稿の形での成果公開に向けて準備を行う。さらに、ドイツの研究者とオンラインでの意見交換を行う予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年度は当初予定していた渡欧が新型コロナウィルス感染拡大のために不可能となったため、予定よりも図書購入費に多く予算を計上した。次年度以降、状況が好転し次第複数回の渡欧を計画しており、次年度使用額はそのための費用にあてる予定である。
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Research Products
(3 results)