2021 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ英雄詩の受容史研究―英雄詩素材の歴史的アクチュアリティ
| Project/Area Number |
20K00491
|
|---|
| Research Institution | The University of Tokyo |
|---|
Principal Investigator |
山本 潤 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (50613098)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
| Keywords | 英雄叙事詩 / 受容史 / 歴史性 / ドイツ文学 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度には、中世盛期から後期にかけての英雄詩素材の受容とそこから生成される歴史構造について、救済史的歴史モデルにおける英雄の立ち位置と、英雄伝承の教化素材化という視点から考察した。
①『ニーベルンゲンの歌』の成立には、聖職者の作品制作依頼者としての関与が想定されており、その目的が英雄譚の批判的な教化素材への転用と、物語の黙示録的性質を明らかにすることによる救済史的歴史構造のアナロジーとしての意味の付与であることが推測されるとの考察を行った。
②東ゴート王テオドリックは、ローマ帝国史との関連で歴史叙述の対象となり、聖職者の視点からのテクストが多く残されており、その中で彼は異端の王として悪魔化された一方、彼にルーツを持つ英雄ディートリヒ・フォン・ベルンに関する伝承を素材として、中世盛期から後期に詩作された叙事作品では、キリスト教的救済の可能性が示唆されていることを確認した。
③中世末期に成立した、ドイツ語圏における英雄伝承の見取り図としての役割を目指したテクストである通称「英雄本散文」において、英雄の歴史が救済史との結びつきの中で語られる一方、彼らの代表者としてのディートリヒ・フォン・ベルンに救済と破滅の両義的な結末を与えていることから、中世末期においてもローマ・カトリック的な視点からの英雄的存在に対する否定的な見解と、それに対抗し悪魔化された英雄的存在にキリスト教的救済を与える英雄叙事詩という相克的関係が認められることを示した。
以上の考察の成果を、2021年12月19日に行われたReMo研シンポジウム「東西中世における修道院・寺社の書物文化―制作・教育・世界観の変容」において、「ドイツ語圏英雄伝承の教化素材化―ニーベルンゲン伝説およびディートリヒ伝説を題材に」との論題で口頭発表した。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度に続き、令和3年度も新型コロナウィルスの感染拡大のため、ドイツ・オーストリアへの渡航と現地での資料調査並びに同地からの研究者の招聘が不可能であった。そのため、令和3年度は手持ちの資料のみを用いての研究を継続し、来年度以降にドイツ・オーストリアに渡航可能となった場合に備え、同地で調査すべき文献を精査している。また、論文化する予定であった令和2年度に行った口頭発表は、現在共著としての刊行計画があり、そちらのために改稿作業中である。
|
| Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、新型コロナウィルス感染状況がいまだ予断を許さず、加えてウクライナ情勢の影響により今後のヨーロッパとの往来に関する状況が不透明であるものの、可能であれば夏季にドイツ・オーストリアに赴き、かねてからの懸案であった現地図書館での資料収集を行いたいと考えている。また、これまでに行ってきた複数の口頭発表や今後執筆予定の論考に関して、共著としての書籍化の計画が進行中である。そのため、令和4年度は現在執筆中の中世盛期から後期を対象とした論考を完成させるのに加え、書籍に収録する論考として候補となっている第二次世界大戦終戦前後における英雄叙事詩の受容および再作品化に関しての研究を進める予定である。
|
| Causes of Carryover |
令和2年度に引き続き、当初予定していた渡欧が新型コロナウィルス感染拡大のために不可能となったため、旅費として計上していた予算を使用することができなかった。また、令和2年度は十が不可能という状況を受け、旅費として予定していた予算を文献購入に当て、多くの文献を購入済みであったため、令和3年度は新規の文献の購入も少なかった。未使用分の予算は令和4年度以降の渡欧の旅費および研究者招聘の人件費に当てる予定である。
|
Research Products
(2 results)
