2022 Fiscal Year Research-status Report
ユダヤ系フランス語亡命文学における神話の研究:フォンダーヌとガリを中心に
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20K00494
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
岩津 航 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (60507359)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ユダヤ人文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
バンジャマン・フォンダーヌ研究の成果として、論文「フォンダーヌとボードレール」(『Nord-Est』第15号、日本フランス語フランス文学会東北支部、2022年、p. 3-7)および「バンジャマン・フォンダーヌにおける複数言語」(『言語文化論叢』第27号、金沢大学国際基幹教育院外国語教育系、2023年、p. 47-65)を発表した。前者は『ボードレールと深淵の経験』を中心に論じ、後者はルーマニア語、イディッシュ語、フランス語、スペイン語をめぐるフォンダーヌの文学活動を概観したうえで、多言語作家としての意義を分析した。また、フォンダーヌ研究の国際学会誌に、自身の研究を紹介するエッセイを発表した("Comment j’ai decouvert Benjamin Fondane", Cahiers Benjamin Fondane, vol. 25, 2022, p. 144-145)。同誌には、フォンダーヌの日本受容についての記事もあり、申請者の研究も引用されている。 ロマン・ガリについては、日本フランス語フランス文学会中部支部大会で「ロマン・ガリにおける郷愁の不在――ヴィルノ、ニース、フランス」(2022年12月3日)と題する口頭発表を行い、『夜明けの約束』を中心に、少年時代を過ごした都市への郷愁が欠けている意味を、フランスの理想化という側面との関係で考察した。2023年度中に査読付き論文として発表される見込みである。また、金沢大学人文学類の第3回「越境と郷愁」研究会で「どこで、どの言語で書くか フォンダーヌ、ガリを中心に」(2022年12月7日)と題する口頭発表を行った。フォンダーヌの多言語使用に加えて、ガリにおけるロシア語、イディッシュ語、ポーランド語、フランス語、英語の意義について考察した。 さらに、ロマン・ガリと同時期にパリ郊外で活動した亡命ポーランド人ジョゼフ・チャプスキについて、「チャプスキとプルースト:『収容所のプルースト』を中心に」と題する口頭発表を日本プルースト研究会(2022年6月4日、立教大学)で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フォンダーヌとガリという二人のユダヤ系作家は、ホロコーストを挟んで、戦前と戦後に活躍した。両者の作品を並行して研究することで、20世紀のユダヤ系フランス文学の道筋を複眼的に理解することができる。2022年度は、フォンダーヌにおける複数言語使用の意義や、ガリにおける郷愁の不在と理想主義の関係を解明し、前年度までに達成できなかった視野を獲得できた。論文ではフォンダーヌという詩人の多面性を日本語で提示することができた。また、『カイエ・フォンダーヌ』への寄稿では、日本におけるフォンダーヌ研究の一端を世界の研究者につなぐ役割を果たした。学会発表と研究会発表はいずれもオンライン開催であり、外国からの接続も含めて、幅広い聴衆に向けて研究成果を発信することができた。以上のことから、2022年度の研究成果は、計画に沿って順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍によって中止されてきた海外での文献調査および研究者との議論を今年度は実施し、2020年度から積み上げてきた研究成果を補強する新たな資料や観点を獲得する。その成果を日本語およびフランス語論文として発表し、国内外に研究の成果を発信する。
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Causes of Carryover |
当初予算で計上していた海外における文献調査や研究交流は、コロナ禍における渡航制限などの影響により断念せざるを得なかった。また、計画の一環にあったルーマニアやリトアニア、ポーランドでの文献調査は、ウクライナ戦争の勃発により、同国と隣接する国への渡航の安全性がどの程度確保できるか不透明であったため、これも見送ることとした。実際に、2022年9月には申請者自身が新型コロナウイルスに罹患したこともあり、もし夏季休暇中の海外出張を計画していても中止せざるを得なかったことを考えると、渡航計画に慎重になったこと自体は妥当であったと考えられる。文献購入は、主だったものは既に購入済みであったため、66000円程度と少額に抑えられた。旅費、物品費ともに低額であった結果、855,955円の残額が発生することとなり、研究期間の延長を申請することとなった。 2023年度は、海外出張を2件予定し、コロナ禍以降途絶えていた研究交流の再開や、フランスを中心とする文献調査を実現し、論文や書籍執筆の資料を入手活用できるようにする。
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