2020 Fiscal Year Research-status Report
近世フランスにおけるポール=ロワイヤルの歴史と記憶
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20K00503
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
御園 敬介 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (60586171)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ポール=ロワイヤル / ジャンセニスム / ラシーヌ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランス古典主義時代における知的・文化的・宗教的な発信源として広範な影響力を誇ったポール=ロワイヤル修道院の歴史と記憶を辿るものである。その第一歩として、計画の初年度にあたる令和二年度の研究は、この修道院の最初の歴史家とも言える劇作家ジャン・ラシーヌの絶筆『ポール=ロワイヤル史概要』(1698年頃執筆)の翻訳と注解に費やされた。国王の修史官であった晩年のラシーヌが落日のポール=ロワイヤルを擁護する立場から筆をとったこの作品は、修道院の歴史を彩る主要な人物や出来事を一次資料に基づいて丁寧に記述した比較的コンパクトな歴史書であり、当該問題への接近を可能にする最重要文献の一つである。とはいえ、二部構成で書かれ第二部が未完に終わったこの著作の執筆と出版の背景はきわめて錯綜しており、この点の解明が最初の課題となった。その過程で、第一部については死後に刊行された初版である一七四二年版を、第二部についてはフランス国立図書館に所蔵されているラシーヌの自筆原稿をそれぞれ底本としつつ、必要に応じて他の諸版および写本を参照することがテクストの確定における最良の選択であると判断されたため、その方針に沿って翻訳と注解を進めた。ポール=ロワイヤルに関する邦語文献がほぼ皆無である現状において、一種の入門書とも言える基礎資料を日本語の環境下に置き直すこの試みは、一定の意義を有するものと思われる。本研究の基幹をなす部分であり、次年度以降も継続しておこなう予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍にあって資料調査のための渡仏計画を立てることができず、関連文献の閲覧・収集という点で不都合が生じることもあったが、『ポール=ロワイヤル史概要』の底本とした一七四二年版もラシーヌの自筆原稿も、ともにインターネットを介して閲覧が可能であったうえに、重要な写本については写真版を取り寄せることができたため、翻訳と注解はほぼ通常の環境下で進めることができた。以上を踏まえ、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き『ポール=ロワイヤル史概要』の翻訳と注解を進めながら、ポール=ロワイヤルの共同体の中心にあった女子修道院の実態を解明する作業に取り組む。近年の注目すべき研究を参照しつつ、同時代の著述家による資料および修道女たちが自ら書き残した資料の存在を整理することろから始める予定である。新型コロナウィルスの影響により、夏季休暇等を利用してフランスに渡り文書館や図書館の資料を渉猟することが難しい状況にあるため、これまで以上に、電子版や写真版による資料へのアクセスの可能性を探る必要があると思われる。
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Research Products
(4 results)