2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K00506
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
泰田 伊知朗 東洋大学, 国際観光学部, 教授 (20822076)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 西洋古典受容史 / ラテン語 / 江戸時代 / 切支丹屋敷 |
Outline of Annual Research Achievements |
以下の論文を発表した。泰田伊知朗,『ラテン語受容史における切支丹屋敷』、『観光学研究』、21号、 87-97頁、2022年3月。この論文は以下のようにまとめられる。 日本におけるラテン語受容の先駆けは、16世紀後半に始まったイエズス会によるラテン語教育であるが、その後の鎖国政策のなかでその受容も衰退する。だが8代将軍吉宗以降蘭学が勃興し、蘭学者の中には西洋古典語であるギリシャ語やラテン語に取り組む者もいた。このようにキリスト教排斥が徹底的に行われるようになった17世紀前半から、蘭学者の活躍が始まる18世紀後半までの間はラテン語受容の空白期と言える。だがその時期にわずかではあるがラテン語受容の痕跡が窺える。当時、受容に携わった人々が交差したのが、現在の東京都文京区小日向にあった切支丹屋敷である。そこには捕われた西洋人宣教師たちが収容されていた。本稿ではこの切支丹屋敷に関わった複数の人々がラテン語受容に貢献したことを論じ、その受容史の空白の部分を埋めていくことを目的としたものである。とくに切支丹屋敷を建てた井上筑後守正重、そこに収監されたジョバンニ・バッティスタ・シドッチ、彼を取り調べた新井白石、その尋問で通訳を務めた今村源右衛門、今村にラテン語の手解きをしたアドリアーン・ダウを取り上げた。 この論文以外にも前野良沢によるラテン語画讃の翻訳(『西洋画賛訳文稿』(1779))の研究にも取り組んだ。また台湾輔仁大学のNicholas Koss教授が編集委員長を務めるThe East Asian Journal of Classical Studies (EAJCS) の立ち上げにも関わっており、そこに関わる中華圏の西洋古典学者たちとも緊密に連絡をとっている。コロナ収束以降は、彼らとの西洋古典受容史に関する共同研究を加速させたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は以下の論文を発表した。泰田伊知朗,『ラテン語受容史における切支丹屋敷』、『観光学研究』、21号、 87-97頁、2022年3月。現在すでにラテン語教育に関する別の英語論文を、The East Asian Journal of Classical Studies (EAJCS) に投稿し受理されているが、編集の遅れでいまだ出版されていない。日本はもちろん中華圏の西洋古典学者たちとの連携は続いており、コロナが収束し自由に往来することができるようになれば、共同研究は加速するであろうと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
江戸時代前半のラテン語受容に関する英語論文を作成しており、その完成および投稿、出版を目指したい。また蘭学勃興以降、蘭学者たちによる古代ギリシャ語、ラテン語への取り組みについてもまとめていきたいと考えている。具体的には前野良沢、および宇多川洋庵である。前野良沢(1723-1803)はラテン語で書かれた画讃を翻訳し、『西洋画賛訳文稿』(1779)としてまとめた。また宇田川榕菴は、『羅甸語觧』(1824)でおよそ700のラテン語の単語を収集している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、コロナウイルス蔓延のため国際学会に参加できず、また資料収集や共同研究のために海外渡航予定であったがそれも叶わなかったためである。使用計画としては、コロナウイルスが収束したのちは、前野良沢のラテン語画讃の翻訳(『西洋画賛訳文稿』(1779))の原本の研究のためにイギリスに赴く。そこでケンブリッジ大学図書館にその所在が確認されるIoannes Stradanus’s Venationes Feraum, Auium, Piscium Pugnae (1580, Antwerp)を閲覧する。また台湾において新たに出版されるThe East Asian Journal of Classical Studies (EAJCS)の今後の課題について、その責任編集者である台湾の輔仁大学のNicholas Koss教授を訪問する。そこでは東アジアの西洋古典受容史研究者たちの共同研究のネットワーク構築についても議論する予定である。
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