2022 Fiscal Year Research-status Report
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20K00506
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
泰田 伊知朗 東洋大学, 国際観光学部, 教授 (20822076)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 西洋古典受容 / ラテン語 / イエズス会 / フランシスコ・ザビエル / 日本 / アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
以下の論文を出版した。Taida Ichiro, "Francis Xavier and Latin Education in Asia," The East Asian Journal of Classical Studies, vol. 1, pp. 77-86, 2022年10月
論文の概要:イエズス会の宣教師フランシスコ・ザビエルは1541年にヨーロッパをたちアジアに向かい、キリスト教を広めた。ザビエルの現存する手紙には、主にインド、東南アジア、日本で行われた彼の伝道活動が記されている。特にゴアとマラッカでの学校の設立とラテン語教育については頻繁に報告されている。この 2 か所を訪れた後1549 年に彼は日本に到着したが、彼は手紙の中で日本におけるラテン語教育の確立や可能性について言及していない。 日本では1579年にアレッサンドロ・ヴァリニャーノが来日して初めて、体系的なラテン語教育が開始された。この論文の目的は、なぜザビエルがゴアとマラッカでラテン語教育を推進したが、日本では推進できなかったのか、なぜザビエルは日本でラテン語教育を設立できなかったのか、ヴァリニャーノはできたのかを論じることである。具体的にはゴアとマラッカの現地事情とラテン語教育を紹介し、両都市を日本と比較し、さらにザビエルの時代とヴァリニャーノの時代の日本社会を比較した。そしてザビエルの時代にはゴアとマラッカはすでにポルトガルの植民地であったのに対し日本はそうではなかったこと、ザビエルの時代とは異なりヴァリニャーノの時代は既にキリスト教が広まっておりラテン語教育の設立が可能な状況であったことに着目して論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年12月にThe Latin Language in Feudal Times in Japan: Focusing on Kirishitan Yashiki, the Christian Houseというタイトルの論文が、雑誌Latomusにアクセプトされた。この論文は、江戸時代に存在したキリシタン屋敷と呼ばれる西洋人宣教師などキリスト教徒を収容する施設に関わる人々とラテン語の関連を述べたものである。近年中に出版される予定である。 また西洋から西洋古典を受容してきたという共通項を共有する東アジア諸国における、国境を超えた協力関係の萌芽がみられるが、それらに積極的に関わってきた。まず台湾輔仁大学のNicholas Koss教授が中心となり2022年10月に発刊された雑誌The East Asian Journal of Classical Studiesである。これは東アジア諸国の西洋古典に関わる研究者たちの論文、もしくは東アジア諸国の西洋古典の受容に関わる論文を出版することを目標としている。この雑誌の創刊号の発刊に、日本の研究者たちとエディターの取次役(Country Assistant)ようなかたちで携わった。 また2022年9月から12月に中国の東北師範大学の世界古典文明史研究所のSven Gunther教授が毎週開催したオンライン・リサーチセミナーのIHAC research seminar: Reception of Western Antiquities in (South-)East Asiaにも参加した。そこには毎週20名ほどの東アジアおよび欧米諸国の研究者が集い、西洋古典受容について活発な議論が行われた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず2023年6月に開催される2つの学会で西洋古典受容について発表するのでその準備を行う。1つは獨協大学で開催される日本西洋古典学会で、1595年に天草で刊行された『羅葡日対訳辞典』というラテン語・ポルトガル語・日本語辞書におけるVenusの意味について論じる。 またシンガポールで開催されるInternational Society for Cultural Historyという学会の国際会議(テーマはCultural Hisoties of Empire)でも、明治以降太平洋戦争終結までの間の日本および台湾、韓国、満州など日本の植民地における、ギリシャ、ローマ風建築について発表することが決まっている。 これらの学会後には発表内容を論文としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、コロナウイルス蔓延のため国際学会に参加できず、また資料収集や共同研究のために海外渡航予定であったがそれも叶わなかったためである。使用計画としては、コロナウイルスが収束したのちは、前野良沢のラテン語画讃の翻訳(『西洋画賛訳文稿』(1779))の原本の研究のためにイギリスに赴く。そこでケンブリッジ大学図書館にその所在が確認されるIoannes Stradanus’s Venationes Feraum, Auium, Piscium Pugnae (1580, Antwerp)を閲覧する。また台湾において新たに出版されるThe East Asian Journal of Classical Studies (EAJCS)の今後の課題について、その責任編集者である台湾の輔仁大学 のNicholas Koss教授を訪問する。そこでは東アジアの西洋古典受容史研究者たちの共同研究のネットワーク構築についても議論する予定である。
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