2021 Fiscal Year Research-status Report
文学と歴史への脱近代的アプローチ ー ジョルジュ・バタイユの『至高性』とその射程
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20K00507
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
酒井 健 法政大学, 文学部, 教授 (70205706)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | バタイユ / 至高性 / 芸術 / 文学 / 音楽 / モーツァルト / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の対象はジョルジュ・バタイユ(1897-1962)の1950年代の遺作『至高性』である。この理論書は、西欧中世の封建制から20世紀の共産主義社会まで西欧の政治史を追いつつ、その中で芸術の至高性の行方を考察している。最終章は文学論(カフカ論)に充てられるはずだったが未完に終わった。本研究は、バタイユと同様に中世から近代に及ぶ西欧の政治史を基本的な視点に据えつつ、文学論に収斂するバタイユの試みをより広い視点に立って捉え直している。 昨年度はメディアという大きな視点に立って、バタイユの概念「至高性」を考察した。つまり意味の伝達を第一の要件にする一般の情報メディアと異なり、バタイユは意味の伝達を超える無意味の交わりをメディアの可能性に見て、至高性の具現を欲していた。この点を『至高性』及び彼の他の著作に照らして検討した。 今年度はメディアの視点を継続させつつ、研究の視野を芸術創造とその所産に特化して、至高性と芸術の関係に取り組んだ。芸術の中でもバタイユがあまり論じてこなかった音楽の分野に注目し、バタイユの考察が本質的に音楽論でも有効であることを、具体的にモーツァルトの後期の作品に準拠して考察した。これは『至高性』を未完にせざるをえなかったバタイユの挫折の原因を、文学論(カフカ論)への至高性の限定化に、つまりこのバタイユの思索の狭さに求めて、これを是正する試みであり、また音楽論とも通底するバタイユの文学論の秘められた裾野の広さを開示する試みでもある。一言で言えば、バタイユ以上に考察を芸術の分野に展開して、よりいっそうバタイユの思想の本質を呈示する試みである。 論文の業績として、昨年度に日仏会館で開催されたバタイユのシンポジウムでの口述発表を論文にまとめ(2022年度中に法政大学出版局より共著の形で刊行予定)、バタイユとモーツァルトの関係を2本の紀要論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新たな研究の試みが一定の成果を得たと思われる。すなわち文学論に収斂するバタイユの至高性の思索を広く芸術の問題に開いて捉え直す本研究の方向性が、後期モーツァルトの作曲活動を例にとって解読する具体策に呼応して、紀要論文2本に結実したことが、今年度の進捗状況として比較的好評価を自らに与えることのできる理由である。しかしその一方で世界的なコロナ禍、及びウクライナへのロシアの軍事侵攻を受けて、渡欧が困難になり、フランスの図書館等で資料の収集にあたれなかった点が悔やまれる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進としては二つの方向性があげられる。一つは、至高性をめぐるバタイユの思索を後期モーツァルトの作曲活動に準拠して開示する試みを書物にまとめて出版すること(既に出版社は決まっている)。及び『至高性』の末尾に付されるはずだったバタイユのカフカ論を広く芸術の視野に立って捉え直す方向へ研究を推進することである。この成果は新たに紀要に発表したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍が西欧を始め世界的に蔓延したために、そしてロシアによるウクライナへの軍事侵攻が生じたために、渡欧が困難になり渡航費の支出が果たせなかった。2022年度において、コロナ禍が収まり、上記の軍事侵攻が終結して渡欧が可能になれば、ぜひこの経費を用いて研究を推進したい。
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Research Products
(2 results)