2020 Fiscal Year Research-status Report
ドイツにおける日本学-カール・フローレンツの日本文学研究の問題点を探る-
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20K00509
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
辻 朋季 明治大学, 農学部, 専任講師 (70709089)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本文学史記述の問題性 / 近代科学とコロニアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
カール・フローレンツの日本研究の問題点を探るに当たり、まずは彼の主要著作『日本文学史』を再度読み込むとともに、これまで日欧の文学研究者や評論家が日本文学史をどう捉えてきたのかを比較し、フローレンツの日本文学史への眼差しを読み解いた。また従来型の、作家や著作を列記する形とは異なる観点で文学史を論じた加藤周一の記述(『日本文学史序説』)などとの比較や、19世紀ドイツにおけるドイツ文学史の記述方法との類似点の検証により、フローレンツにおいても、ドイツの文学史記述とのアナロジーによる日本文学史記述の傾向が読みとれること、さらに一国-一民族-一言語のナショナルな文学史モデルへの傾倒が見られる事を確認した。今後は、近代ナショナリズムの立場から削ぎ落とされた点は何かを、サイードの『文化と帝国主義』をはじめとするポストコロニアル批評の成果を参考に、「何が描かれなかったか」といった視点も取り入れて、フローレンツの日本研究の死角を明らかにしていく作業が求められる。さらにフローレンツの『日本文学史』の記述には、1895年の上田萬年との翻訳論争において彼が最後まで譲らなかった、西洋抒情詩形式での日本詩歌の翻訳という姿勢も反映されていることも分かった。よって『日本文学史』の記述は、同一時期に同じ尺度で執筆された統一体として捉えるべきではなく、むしろ、来日以降のフローレンツの日本での研究活動のプロセスを個別に反映した合作であるとも考えられる。各章の記述が、それまでの彼のどの成果を継承し、あるいはどの程度変更しているのかにも注目し、「ちろめん本」形式で発行された翻訳作品も含めて、彼の研究業績のより精緻な分析が求められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受け、オンライン授業の準備にかかわるエフォートが大幅に増加した上、予定していた国内外での資料収集活動が大幅に制限され、フローレンツに関連する一次・二次文献を十分に確保することができなかった。そのため、昨年度は研究の方針を一部改め、より大きなコンテクストでドイツの日本研究を位置付けるべく、19世紀ドイツの学門をめぐる状況の把握、近代ナショナリズム論、植民地主義、日本文学史や国文学者、日本文学史研究を扱った研究書などから、フローレンツが活躍した19世紀末~20世紀前半の時代状況や国民文学史観の形成過程などを把握する作業に務めた。同時に、博士論文「ドイツにおける日本学の眼差し カール・フローレンツの日本「賞賛」に潜む「蔑視」の構図」で扱いきれなかった課題、特に上田萬年との翻訳論争について、論争がどのように継続していたのか、彼のその後の業績からその連続性を明らかにする作業も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、フローレンツが翻訳詩集の改版時に新たに追加した「序言」Vorwortを手がかりにして、これを上田との論争に対する再反論である点を明らかにし、これを、最終的に『日本文学史』まで到る彼の立場の連続性を示すものとして提示したいと考えている。さらに、ベルリン東洋語学校の日本語講師、ルードルフ・ランゲとの論争の詳細を明らかにし、ここでのフローレンツの立場が上田に依拠している点をもとに、日本の国文学者・国学者に対する彼の姿勢がどう変化し、これが彼の業績にどう影響していったかも考察していく。またコロナウイルスの感染収束により海外渡航が可能になれば、ベルリン民族学博物館におけるフローレンツの収集品も分析し、日本関連の事物収集家(コレクター)としての彼の姿勢も批判的に論じていく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により、予定していた国内外への出張ができなくなったほか、大学構内への入構制限により、研究補助にかかわる人件費についても予定通りの執行ができなかった。2021年度は、感染症が収束に向かうと見込まれているので、状況に応じて計画的な予算の執行に努めたい。
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Research Products
(1 results)