2022 Fiscal Year Research-status Report
ドイツにおける日本学-カール・フローレンツの日本文学研究の問題点を探る-
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20K00509
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
辻 朋季 明治大学, 農学部, 専任准教授 (70709089)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日本文学史記述の問題点 / ドイツの日本研究 / 日本文学の翻訳 / 国際日本研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、これまでの成果を発展的に継承する形で、ドイツの日本学者カール・フローレンツの日本研究の問題点を、主著『日本文学史』における作品選択の恣意性や、日本の時代思潮からの影響、翻訳形式の継承・改変などを分析軸にして探ってきた。 これまで、国語学者上田萬年とフローレンツとの翻訳論争を分析する過程で、万葉集や古今集の原作とドイツ語訳との比較を行うとともに、どの作品を選んで訳出したのかを分析してきたが、22年度は、この手法を『日本文学史』全体に拡大し、上代から中古に到る日本文学作品のうち、フローレンツが何を選び、いかなる翻訳スタイルで、どのように紹介していた(いなかった)のか、原作の特定作業も並行しながら分析した。また、1894年の翻訳詩集と1909年の『日本文学史』の双方で取り上げられた作品については、翻訳スタイルの比較も行い、彼が翻訳論争を経て、上田の批判を概ね受け入れ、翻訳形式を短句形式に置き換えていった点を確認した。その成果の一部は、ドイツ語圏日本研究者会議において発表し、ドイツの日本研究者とも議論を行った。 万葉集や古今集、日記文学など、上代から平安末期までの作品については、原作と『日本文学史』との比較・対照作業が終了している。これまでの研究で見えてきた、古今集以降の和歌に対するフローレンツの否定的評価とは対照的に、現在分析している軍記物は、翻訳により頻繁に引用され、ドイツ中世の叙事詩に匹敵するものと高い評価されている。その背景について、当時の日本の文学研究の動向とともに、ドイツ文学史とのアレゴリーに注目しながら、フローレンツにおける日本文学史記述の恣意性と、日独の学界の権威に対する弱さを明らかにし、本研究の課題としている彼の日本文学研究の問題性に迫りたいと考えている。また、中世以降の作品についても引き続き、原作と翻訳の対照作業を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度も、COVID19の影響により授業・学務の運営に割く時間が多くなったほか、学会運営や他の研究課題、講演や著書の執筆なども重なったため、予想よりも進捗が遅れている。ただ他方で遅れの原因には、当初の想定以上に『日本文学史』の注釈と分析作業が重要であることがわかったことも関係しており、研究を通して軌道修正(分析の密度が濃くなったこと)を行ったことも一因である。2023年度も、『日本文学史』におけるフローレンツの文学史既述と、古典文学の引用・翻訳の双方を、原作及びその現代語訳とも対照しつつ、一つ一つ丁寧に分析していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
既に過去3年間の研究を通して、フローレンツの翻訳詩集『東方からの詩人たちの挨拶』の各版(初版~第15版)の比較と、そこで紹介された作品の原作の特定、それに『日本文学史』で紹介された文学作品のリストが、万葉集から八代集(古今集~新古今集)、平安時代の日記文学・随筆から中世の軍記物まで、ほぼできあがっている。今後も引き続き、『日本文学史』の後半の分析を進める。鎌倉時代以降の作品と翻訳、フローレンツによる解説を分析し、登場作品リストを注釈付きで完成させるとともに、『日本文学史』における各時代・ジャンルへのフローレンツの選択や評価、紹介の仕方も分析していき。当時の日本の文学史記述や日清・日露の両戦争という時代思潮、またドイツの文学史観からもどう影響を受けているのかに留意しつつ、「技巧に堕した和歌の量産」や「躍動感ある騎士の生き様の叙述としての軍記物」といった彼の評価軸を批判的に分析し、フローレンツの日本文学研究の問題点に迫りたい。
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Causes of Carryover |
COVID19の影響により、予定していたドイツでの在外研究が延期となり、現地での調査ができなかったことから、次年度への繰り越しが生じた。2023年度は在外研究を取得したため、繰り越し分はドイツでの調査に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)