2021 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦後のシュルレアリスムにおけるハイチの影響
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20K00512
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
長谷川 晶子 京都産業大学, 外国語学部, 准教授 (20633291)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シュルレアリスム / ハイチ / アンドレ・ブルトン / エクトル・イポリット / 前衛芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヨーロッパの芸術運動であるシュルレアリスムが、ハイチにおける民間宗教や人々の生活と深く結びついた芸術のあり方にヒントを得て、第二次世界大戦後の活動を発展させたという仮説を証明することである。
そのために、第ニ年度にあたる2021年度は、これまでに研究がほとんどされていないハイチの画家エクトル・イポリットに関する調査を行った。Mystical Imagination Hector Hyppolite (Haitian Art Society, 2012)をはじめとした先行研究を通して、イポリトの創作活動や人生の詳細について確実な情報を得ることができた。同時に、シュルレアリスム運動の理論的指導者であるブルトンにとって、この時期、イポリットが特別な存在であり、この当時のブルトンに新しい世界の見え方を教えてくれる貴重な存在であった可能性が高いことが明らかになった。この研究の成果は次年度に論文としてまとめて発表する予定である。 第二に、第二次世界大戦中にニューヨークに亡命したシュルレアリストたちの活動に関する調査である。特にニューヨークで活動していたメンバーたちのなかで、いわゆる「素朴派」に対する関心が急激に高まったことに注目した。ニューヨークの画商シドニー・ジャニスが与えた影響も軽視できないが、彼らの活動を調査することで、この素朴派への関心の高まりの背景を明らかにした。 第三に、シュルレアリスムにおけるこの素朴派への関心と他の「素朴」とみなされていた芸術への関心との結びつきを、他の同時代の画家たちについても検証した。この成果に関しては次年度に論文としてまとめて発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19のパンデミックのせいで、2021年度もハイチやアメリカでの調査を実施できなかった。そのため、使用金額が予定よく少なくなっている。 初年度は旅費を使わずに国内にいながらも入手できる資料の収集に努めたが、二年度である2021年度も、遠隔で手に入れることのできる書物を積極的に購入した。遠くにある資料の取り寄せに時間や手間がかかるため、進捗状況はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2022年度は、主に以下の研究を行う予定である。
第一に、状況が許せば、ハイチ、アメリカへの実地調査を実施したいと考えている。エクトル・イポリットの創作に関する調査を現地で行い、この謎に包まれたヴードゥー教の画家の活動の全体を明らかにしたい。この成果は前年度の調査とまとめて論文として発表する予定である。 第二に、第二次世界大戦後におけるヨーロッパの芸術の潮流における「原始的なもの」「素朴なもの」に関する調査である。特にこの時代、シュルレアリスムとも関係のあった前衛芸術CoBrAにおけるこの関心を明らかにしながら、シュルレアリスム の考えを相対的な視点から再考したい。これに関しても成果とまとめて論文として発表する予定である。 第三に、ブルトンをはじめとしたシュルレアリストたちの作品において、ヴードゥー教の象徴的な表現の応用が見られるのかを調査する。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染状況が落ち着いて、状況が許せば、アメリカとヨーロッパに実地調査に赴きたいと考えている。シュルレアリストたちのアメリカ亡命時代の関連資料と1947年の展覧会に関係する資料の調査をする必要がある。シカゴのアート・インスティチュート、ニューヨーク近代美術館MoMAおよび付属図書館、ロサンゼルスのゲッティー研究所、ウィーンのフレデリック・キースラー・アーカイブ、パリのポンピドゥー・センター付属カンディンスキー図書館、ジャック・ドゥーセ図書館、ハイチ国立図書館にて調査する。ハイチの文化に影響を受けたと考えられるシュルレアリスト画家に関する調査も、ポンピドゥー・センター付属のカンディンスキー図書館とリール・メトロポール現代美術館付属図書館にて行いたい。
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