2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K00513
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
橋本 知子 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (60625466)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス / 文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、19世紀フランス文学における「幻」の多様性を分析するにあたって、当該年度は、19世紀フランスの歴史的社会的文脈および思想背景と、写実文学作品に見受けられる影響について分析した。具体的には、分析対象を歴史小説におけるフィクションとノンフィクションの言説という問題、さらに、ノンフィクションにおけるフィクション性という問題に焦点を絞った。作品としては主にフロベールの歴史小説を扱った。新聞という時事問題を扱う媒体における虚構性への転化という観点からフランス19世紀後半における二月革命の描かれ方を再考し、また、そうした虚構の言説が対象とする当時の女性解放運動をめぐる言説、および、挿画による用意周到なイメージ操作という問題についての分析を行った。特に後者の問題については、これまで先行研究で取り上げられることのなかった革命当時の新聞記事とフロベール作品との関連性を提示した。このように新聞記事に見受けられるノンフィクションとフィクションとの関連性を探ることにより、従来の歴史小説研究とは異なる新たな読み方を提案するに至った。フロベールは初期作品から晩年にいたるまで「幻」の場面をくりかえし描いている。そこには様々な小説上の機能および意義がみとめられる。今回本研究で着目したのは作家の歴史表象と批判精神との二重性である。こうした問題提起により、作品にこめられた作家の革命観、アイロニー、およびその文彩を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『感情教育』における二月革命と革命当時の女性運動についての論文を執筆し、論文集への寄稿を行った。 また昨年度口頭発表を予定していたがコロナ禍により中止となったフランスの国際学会については、予定通りフランス語論文集が刊行された。フランス語論文を寄稿、成果発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
対象とするテクストを拡大し、フロベールと同時代の他の作家との比較を行うことで、19世紀フランス文学に通底する「幻」の重層性を分析する予定である。
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Causes of Carryover |
国際シンポジウムにて口頭発表を行う予定であったが、コロナ禍により国際シンポジウム自体が中止となった。さらに日本国内にて開催予定のフランス語フランス文学会全国大会は、春季、秋季ともにオンライン上での開催へと変更になった。代わりに他大学図書館にて文献調査を行うために旅費を使用したが、予定していた額の旅費を執行しなかったため次年度使用額が生じる結果となった。コロナ禍の影響については予測不可能であるため、海外出張が依然として困難となる場合には、そのために予定されていた額を書籍購入として使用する計画である。
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