2023 Fiscal Year Research-status Report
"Secular Criticism" in the Post-Secular Age --- Edward W. Said's Literary Theory and Its Legacies
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20K00517
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
三原 芳秋 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (10323560)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 〈はじまり〉の思想 / 国立台湾大学国際学術会議 / 『思想』サイード没後20年特集 / 「制限、回避、認識」 / サイードと/のフーコー / サイードと大江健三郎 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は国内外における研究成果発表を精力的に行う一年となった。 まずは5月、国立台湾大学による招聘を受けて国際会議に参加し、初日第1セッションに登壇した。アーカイヴ資料をふんだんに用いた口頭発表 “‘Beginning as Zero’: Reflections on Edward W. Said’s Beginnings” は、初期サイードをめぐる通説を大きく書き換えるものとして高く評価された。本会議の成果は、英語の学術批評ジャーナル『Ex-position』2024年12月号に公表される予定である。 他方国内においては、2022年度より責任編集者として準備してきた『思想』(岩波書店)2023年12月号「エドワード・サイード没後20年」特集号を上梓した。本特集号には、アラビア語以外では未公開だったサイードの論文「制限、回避、認識」やギル・アニジャールの論考「世俗主義」の翻訳を収録しそれぞれに解題を執筆するとともに、日本のみならず韓国・中国からも論考を集め、東アジアにおけるサイード研究の水準の高さを示すことができたと自負している。自身も論文「フーコーは別にして ― 「サイードと/のフーコー」再考」を寄稿し、未公開資料(初期サイードの書簡や研究ノート、蔵書への書き込みなど)の読解を通じて「サイードと/のフーコー」という古くて新しいトピックに関する新機軸を提示した。 また、調査の方面では、2023年6月にコーネル大学で開催された国際会議に招聘された足でコロンビア大学を再訪し、ターゲットを絞った集中的なアーカイヴ調査を行うことができた。2年前の調査における空白を埋める一方でさらなる発見にも恵まれ、短期間ながらに充実した調査となった。 さらに、いわばスピンオフとして、『ユリイカ』の大江健三郎追悼号(2023年7月)に論考「大江が扉を開いていた ― エドワード・W・サイードのアーカイヴから」を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は期間延長を想定していたわけではなく2023年度を本研究課題の最終年度と位置づけて研究計画を進めてきたわけだが、その観点からしても、日本語・英語の両方でいくつかの重要な成果を着実に発表できたことから、「おおむね順調」と評価したい。これらの成果は付け焼刃のものではなく、数年かけて調査・整理したアーカイヴ資料をもとに、これまでに培った知見によって十分に練り上げられたものであり、さらに言うとその発表媒体も熟慮のうえで決定した。また、個人の研究成果のみならず、『思想』のサイード特集号を責任編集するというかたちで、日本のサイード研究に一石を投じることができたと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
延長期間については、引き続き研究成果の公開に努めるとともに、それらをまとまったかたちで世に問うことを目指す。2024年4月末には韓国の成均館大学校が開催する「第1回成均国際人文フォーラム」の基調講演として、〈晩年のスタイル〉をめぐって「世俗世界性」(サイード)や「出生性」(アーレント)について話す予定である。また基調講演に続いて行われる同校での「海外碩学特別講義」や、2024年8月に予定されているエコクリティシズム研究学会の特別講義の依頼を受けているのを機に、「惑星的危機」や「ポストヒューマニズム」といった観点からサイードとアミタヴ・ゴーシュを重ね合わせるかたちで、本研究プロジェクトの先を見据えた新たな地平を切り拓きたいと考えている。
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Causes of Carryover |
上述のように今年度の成果発表にはそれなりの自負があるとはいえ、これらは単発の論文・口頭発表、あるいは雑誌の特集号という形態にとどまり、いまだまとまったかたちをなしていない。そのため、研究期間を一年間延長し、よりまとまったかたちでの成果発表を期することが望ましいと判断した。
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