2021 Fiscal Year Research-status Report
草月会資料調査に基づく戦後前衛芸術の研究-安部公房・勅使河原宏を軸に
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20K00519
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
友田 義行 甲南大学, 文学部, 准教授 (40516803)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日本近現代文学 / 戦後文学 / アヴァンギャルド(前衛) / 芸術 / 映画 / アダプテーション / フィルム・アーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、戦後日本のアヴァンギャルド(前衛)芸術運動において、文学・映画・戯曲等のジャンルを横断した実践がどのように結実したか、その実態と意義を解明することにある。具体的には、まず文学者安部公房と、映画監督勅使河原宏が創作の中軸を担った重要な言語/映像テクストを分析する。 2021年度はコロナ禍で草月会館への出張が困難となり、申請時の研究実施計画通りには資料調査が進まなかった。一方で、勅使河原宏監督没後20年記念事業に関わり、一般財団法人草月会や宮帯出版社およびシネマヴェーラ渋谷と連絡を取りながら、出版・上映イベントに携わった。イベント後には草月会およびIMAGICA Lab.の協力を得て、勅使河原監督のドキュメンタリー『インディレース 爆走』をデジタル化し、研究資料としての活用と、フィルムの延命に努めた。また、今後も勅使河原監督フィルムの調査を継続する協力体制を築いた。 加えて、安部公房を中心とした研究として、1950~60年代における安部公房と映画との関わりについてまとめたほか、勅使河原宏らの発言も参照しながら安部公房の引揚げ体験と作品への影響について論文を発表することができた。 上記の出版・上映イベントのほか、文学・映画・音楽・美術の横断的エキシビションを研究者3名で開催し、本研究課題でデジタル化した『インディレース 爆走』の上映と研究発表を行い、安部公房や安岡章太郎ら同時代の文学者たちとの交流にも言及した。また、勅使河原宏の初期監督作『いけばな』『フィルム・モザイク』についても上映と研究発表を行い、サルヴァドール・ダリ、武満徹、大野松雄といった同時代の芸術家たちとの関わりを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では主な資料調査を一般財団法人草月会館資料室(東京)で行う予定だったが、コロナ禍に伴う蔓延防止等重点措置の発令により所属機関からも出張の延期や中止が要請され、計画していた調査を行うことが困難となった。 一方で、勅使河原宏監督没後20年記念事業として、一般財団法人草月会や宮帯出版社およびシネマヴェーラ渋谷と連絡を取りながら、出版・上映イベントに携わることとなった。出版事業では、草月会資料室および事業課等に電話やメールで取材し、必要となる資料を提供いただきながら、映画監督としての勅使河原宏を総合的に論じた共著の責任編集を務めることができた。自身も巻頭言・作家論を執筆し、安部公房との協働や、同時代の芸術家との影響関係について論じた他、作品論の翻訳、再録文章の選定・翻刻なども務め、研究目的に掲げた内容を総合的に実施することができた。自身の研究だけでなく、様々な分野の研究者・批評家たちの論考を編むことで、勅使河原宏をはじめとした戦後前衛芸術家たちの活動を、多角的に捉えることができたことは大きな成果となった。 上映イベントでは、シネマヴェーラ渋谷の館長と連絡を取り、勅使河原監督フィルムについて情報を交換した。その後、ソフト化されていなかったドキュメンタリー『インディレース 爆走』をデジタル化するとともに、フィルムにクリーニングを施すことができ、研究資料しての活用と、フィルムの延命に貢献することができた。同作では安岡章太郎や安部公房らの関わりも見出せ、研究調査を進めている。また、勅使河原監督の初期作の分析を通して、同時代の芸術家たちとの関わりをより広範に捉えることができた。 研究計画の変更を余儀なくされたが、様々な方法で研究調査を進めており、またフィルムのデジタル化プロジェクトも順調に進んだことから、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍に伴う出張抑制と、勅使河原宏没後20年を記念した出版・上映イベントへの対応により、当初の研究計画(スケジュール)に若干の変更が生じたが、研究内容についてはほぼ計画通り進んでいる。勅使河原監督の未ソフト化映画についても、ドキュメンタリー『インディレース 爆走』に絞ってデジタル化とフィルムクリーニングを実施できた。ただ、フィルムの経年劣化に対応するための技術料などが発生し、当該年度予算では不足が生じたため、次年度分予算を一部前倒しすることとなった。 今後は基本的には研究計画書に沿って進める予定であるが、コロナ禍の影響で草月会資料室への出張が再び困難となった場合は、フィルムのデジタル化事業を優先的に展開し、必要な資料は草月会に依頼して取り寄せるなどの対応を考えている。 また、新たに『おとし穴』『砂の女』といった勅使河原監督の代表作について、フィルム調査を行うこととした。映画の資料的・物質的な研究調査を行うことで、本研究課題をより深化できる見込みである。 研究成果の公表については、学会誌・大学紀要等への論文投稿によって行うほか、他領域の研究者と合同で文学・映画・音楽・美術の横断的エキシビションを開催したり、地域のミュージアムなどでの上映・口頭発表での発信にも努める計画である。
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Causes of Carryover |
主に映画フィルムのデジタル化に要した費用が見込みより多くなったため、前倒し請求を行って補填した。しかし、コロナ禍の影響で出張を中止せざるを得なくなるなど、旅費に剰余が生じた。結果的に次年度使用額が生じることとなった。 2022年度も主に映画フィルム調査のために多額の費用が必要となる見込みのため、再び前倒し請求を行った。次年度使用額も含め、研究課題遂行のため全額活用する予定である。
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Research Products
(9 results)