2021 Fiscal Year Research-status Report
Poetics of Laughter and Requiem: Noh/Kyogen and Ireland〜W.B. Yeats, Lafcadio Hearn and Ezra Pound
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20K00520
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
真鍋 晶子 滋賀大学, 経済学部, 教授 (80283547)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | W.B. イェイツ / エズラ・パウンド / ラフカディオ・ハーン / 能狂言 / 鎮魂 / 笑い / 詩学 / アイルランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、W.B.イェイツ、エズラ・パウンドが、狂言(笑いの演劇)と能(鎮魂の演劇)を共存させた作品世界を展開していること、その詩学の根幹に能狂言から得たものが共存すること、また、その作品の現代的意義を検証することを主軸とする。既存の演劇範疇の境界、西洋・日本の境界と言う二つの境界を越境する独特の普遍的境地がイェイツ、パウンド、そしてハーンの作品に展開されている様をイェイツのtragic joy、パウンドのparadiso terrestreをキーワードに見極める。過去、イェイツ、ハーンの作品に基づく新作狂言・朗読上演の企画運営を国内外で行った実績を活かし、机上のみの研究とは異なる知見を展開する。 2020年度は1)研究基盤作り(①原典研究②観劇③役者聞き取り④研究環境整備)2)研究発表を基軸に、能狂言がイェイツ、パウンドの作品へ昇華される様を追求した。 2021年度もコロナ禍のため、海外出張、京滋を超えた国内出張とも困難だったが、オンラインの学会が増え、コロナ以前より多くの論文を口頭発表し、また研究交流も再開した。成果は、本研究に発展する前科研の成果報告をする『猫と月』に関する研究会に基づく冊子、論文4本(イェイツ関連国際誌、ヘミングウェイの研究書2冊、紀要)、学会proceedings1本の計6種を出版。口頭発表は、パウンドが狂言として書いた戯曲およびイェイツ演劇における能狂言共存という新たな研究成果を含め、5回(国際学会3回、内1回は招待)。海外調査は無理だったが、国内で能狂言観劇、能楽師聞き取りを重ねた結果、イェイツ、パウンドの演劇、パウンドの『詩章』における能・狂言の要素について新しい発見をし、また、既存研究が存在しない、賀川豊彦のイェイツへの影響を加え、成果発表した。2022年度も国際的評価の高い出版局から論文出版、国内外で招待講演など、成果を発表を続ける。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度はイェイツの戯曲1)『猫と月』に関して積み重ねてきた研究成果、2)その他の戯曲についての新たな成果を発表した。3)パウンドの『詩章』と能楽の関係、既存研究がほぼない、狂言として書かれた戯曲『主人公』についての研究成果も発表した。次の段落で、個々詳細に述べる。 1)①国際的学術誌_International Yeats Studies_に論文掲載、②本戯曲に関する研究会(シンポジウム)をハイブリッド形式で開催、③この研究会の成果を冊子として出版という3つを中心に研究の節目とした。研究会は、狂言師をコメンテーターに代表者を含む3名が論文発表し、参加者(対面10名、ZOOM19名)との意見交換を行ない、研究会に基づき55ページの冊子を出版した。2)『猫と月』以後に書かれた戯曲に狂言的要素および能的要素が発展していることを、「聖なるもの」「聖者」と絡めIASIL Japanのシンポジウムで口頭発表した。3)『主人公』に、パウンドが狂言を理解していることを検証した。日本英文学会のシンポジウムのオーガナイザー・発表者として国内研究者に、また、International Yeats Societyの大会で世界の研究者に問いかけた。特に「笑い」の多様性、また、狂言の主人公が民衆である点を活かしてパウンドの世界が展開されていることを検証した。加えて、狂言師に本作品の公演についての相談も開始。さらに、『詩章』に能が散りばめられ、特に死と対峙した絶唱『ピサ詩章』に能の鎮魂性が反映され、パウンドが理想とする生き方が能の登場人物と交錯して、『詩章』に重層性がもたらされていると示した。また、賀川豊彦に関しても_International Yeats Studies_の論文で言及、上記ハイブリッド研究会で発表、冊子でも論じ、さらに賀川の記念館紀要に論文として深め今後に繋げた。
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Strategy for Future Research Activity |
前2年の研究を発展させ成果発表を行う。 オックスフォード大学とコーク大学出版により出版される2冊の研究書の前者に能狂言とイェイツの関係を論じた章、後者にハーン、イェイツ、フェノロサの繋がりで生み出されたものと、その作品が能狂言および朗読公演に生きていると示した章が掲載される。 研究が認められ、International Yeats Society(IYS)の大会に招聘され、『猫と月』以後の戯曲における能狂言の共存と西洋演劇の伝統との融合を「聖なるもの」の観点で論ずる。日本アイルランド協会のアイルランドにおける殉教に関するシンポジウムでもこの点を発表する。また、IYSのHP上のYeats Conversationに『猫と月』について語ることも依頼されている。さらに、パウンドの『主人公』について、前年度、日本英文学会とIYSでの発表を深め、パウンドの国際学会で発表する。京都開催予定だった本学会の企画運営委員として、本戯曲の狂言版世界初演を京都の狂言の名家茂山千五郎家に相談していたが、オンライン開催となり、公演は見送った。(能楽師による能楽入門と能面師による面打ちを、ZOOM上で私の通訳と説明で行うが、これも本研究の成果である。) 『猫と月』狂言版の茂山千五郎家による9回の公演(アイルランド公演を含む)のほぼ全ての企画運営に携わったが、2019年以後コロナ禍で、実施が難しい状況が続いてる。ついに2022年度国内4公演が予定されるので、同行し本研究の次段階への展開の視点を得る所存である。ハーン作品の狂言化も茂山千五郎による新作が加えた公演延期が、コロナ禍故に続いている。千五郎の聞き取りは行い、公演も工夫して、本研究の成果に盛り込む。また、イェイツとの接点を指摘したことが、賀川研究者・関係者に新しい事実であったため賀川の学会での講演を依頼されている。同時に紀要に続編を投稿する。
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Causes of Carryover |
2021年度もコロナ禍の影響が続き、予定していた国内外の出張が2020年同様困難となったのに加え、学会・研究会、また会議がオンラインで行われる機会が増えたことから、予算執行に変更が生じた。具体的には出張による口頭発表のうち、英国ヨーク、韓国で行われた学会、国内でも東京での国際学会は全てオンライン参加。英国出張と組み合わす予定のアイルランド国立図書館での調査も2年連続で遂行できなかった。国内で2020年に中止されたシンポジウムは当初の予定に変更を加えた上でオンラインで行うなど、京滋を超えた移動はせずに研究と、これらに基づく成果発表を行った。 2022年度は、コロナ禍がの状況が改善すれば、韓国での国際イェイツ協会、延期を続けているアイルランド国立図書館での調査を中心にアイルランドで調査を行うと同時に、アイルランドおよびフランスで研究打ち合わせを行いたい。海外出張が難しい場合も、国内で能楽観劇、打ち合わせ、資料収集はこれまで通り継続することに加え、本研究の核の一つであるイェイツの『猫と月』の狂言版の一連の北海道公演が企画されているので、感染状況が悪化しなければ一週間余り同行し、千五郎家の狂言師と演劇の実際の観点から議論を進め、イェイツとパウンドの演劇について研究に新しい切り口を加えていく所存である。また、賀川豊彦に関しても東京、神戸、鳴門など、資料館を中心に調査出張を行う。
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