2021 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study on the Post-Holocaust Literature across the Borders of Languages
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20K00531
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西 成彦 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (40172621)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ホロコースト / サバイバー / 自伝的回想 / 自伝的小説 / 執筆言語選択 / 多言語状況 / 被害者性 / 加害者性 |
Outline of Annual Research Achievements |
1939年9月の「ポーランド侵攻」から第二次世界大戦のヨーロッパでの終結までの6年弱のあいだも文学創作は決して停止したわけではなく、その著者が戦後まで生き延びられなかった者の創作も、歌の形で戦後まで歌い継がれたものを含めれば、かなりの分量に膨れ上がる。そして、その多くは創作者の第一言語で書かれた。 他方、戦後まで生き延びた者が、トラウマ的な記憶の回帰や生き延びたことへの罪責感などと闘うなかで創作言語に選び取った言葉は、かならずしも戦前の第一言語に限られたわけではない。とくにサバイバーの受け入れに積極的だった英語圏・フランス語圏、そしてイスラエルでは、英語やフランス語やヘブライ語で書くことが優先されることになり、その結果として、「ホロコースト文学」の全貌を見渡すためには、おのずから語圏を横断した「比較文学」の方法が重要になる。 二年目は、初年度に連載を開始した雑誌『みすず』(みすず書房)での連載を第9回まで隔月でつづけ、英語圏の『ソフィーの選択』(ウィリアム・スタイロン)、フランス語圏の『わたしたちのだれひとり帰って行かないだろう』(シャルロット・デルボー)、『聖週間』(イェジー・アンジェイェフスキ)のような非ユダヤ人の作品にも光をあて、また『塩と硫黄』(アンナ・ラングフュス)や『今でなければいつ』(プリモ・レーヴィ)、『ペインティッド・バード』(イェジー・コシンスキ)など、ユダヤ人サバイバーの著作(実録・創作を問わず)をも語圏に縛れず幅広く考察対象にした。また非ユダヤ人サバイバーの生きた戦後の中に「被害者」としてのみならず「加害者」としてのトラウマ的な記憶が残されることを確認できたことも大きな収穫である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度からフランス、もしくはポーランドでの調査を考えていたが、コロナ禍もあり、文献中心の研究に限定されたため、文献の収集と解読を前倒しで進めることができ、成果発信は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、雑誌『みすず』(みすず書房)に連載してきた「死者は生者のなかに」の連載九回分を核にした単著の刊行に向けて、前期を割き、連載では書きこめなかった発見や考察は、注を強化する形で成果の一部とする。 また海外旅費を使った海外渡航は、コロナの防疫体制や、ヨーロッパの戦時状況を見据えながら、渡航先や時期を決定したい。 また「語圏間の隣接性」に注目した比較文学の研究手法の構築に向けて、より広い展望を切り開くのにも研究時間を割きたいと思っている。
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Causes of Carryover |
コロナ防疫体制の世界的な強化や、東部ヨーロッパでの軍事的緊張を考えると、ポーランドへの渡航は見合わせるしかなかった。2022年度に実現できるか、前向きに検討した上で、スケジュールを確定したい。
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Research Products
(8 results)