2022 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study on the Post-Holocaust Literature across the Borders of Languages
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20K00531
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西 成彦 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (40172621)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ホロコースト / サバイバー / ユダヤ人作家 / 非ユダヤ人作家 / 言語横断的サバイバル / 執筆言語の選択 |
Outline of Annual Research Achievements |
『死者は生者のなかに』に「序」を書き足して、書名には「ホロコーストの考古学」の副題を添えて、2022年12月に刊行。2023年に入ってから日本経済新聞、図書新聞、週刊読書人、熊本日日新聞などに、いずれも好意的な書評が載った。東欧文学研究者、フランス文学研究者、ドイツ思想研究者、ディアスポラ研究者といった、さまざまな分野の方々の書評を得られたのが、本研究の特徴をよくあらわしている。 「ホロコースト文学」は、おもにその被害者性を引き受けることになった「ユダヤ人」のみによって担われるものではなく、また「ユダヤ人」を自称する作家が、自民族の「被害者性」のみに光をあてるわけでもない。むしろ「ユダヤ人」であるがゆえに、避けようとする事象を「非ユダヤ人」であればこそ主題化することさえありえた。これまでの研究で、こうした「交錯」が、執筆言語の選択可能性などとも相互に作用しつつ、結果的に豊かな作品を生んできたことは証明できた。 『死者は生者のなかに/ホロコーストの考古学』のなかでは、ウィリアム・スタイロンやイェジー・アンジェイェフスキのような「非ユダヤ人作家」が「ホロコースト文学」のなかでいかに大きな役割を果たしたかも論じることができた。 また、アルベール・カミュやサミュエル・ベケットが自身の「レジスタンス体験」をふまえながら、戦後になってからのホロコースト生存者の文学創造をサポートする文学創造を試みたことを「ペスト」や「人べらし役」などを例に挙げながら論じた。 これらはローレンス・ランガーが1975年に試みていたことの延長に位置するが、そこではあまり扱われていなかったポーランド語やイディッシュ語の作品、そして映画『SHOAH』などに関する分析を加えたことにも特色がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた海外出張が実現できなかったが、イディッシュ語文献の大半がオンラインで閲覧できるなど、研究の進捗をさまたげることはなかった。むしろ研究が進むにつれて新しい問題が浮上してくるため、やや未達の感が否めないが、それは今後の期間延長で克服できるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は『死者は生者のなかに/ホロコーストの考古学』、および『現代詩手帖』(思潮社)に隔月で連載した「世界がゲットー化する時代に」をふまえた、学術イベント、および一般市民向けの公開イベントなども考えており、そこでの反応を受け止めながら、ここまでの研究がおろそかにしてきた点がなかったかどうかを最終点検する。 また「ホロコースト文学」全体のなかでの「非ユダヤ人」の寄与について、チェコ語作家、ラジスラフ・フクスや、スロヴェニア語作家、ボリス・パホルなどについては調査が不足していると気づいたため、そこも補いたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍が理由で海外出張を断念せざるをえず、予算を消化しきれなかったが、その分、研究遂行の過程で浮上したいくつかの問題点の解明と、主たる研究成果である単著『死者は生者のなかに/ホロコーストの考古学』をふまえた研究会などの開催をへて、研究のいっそうの精緻化に残額と時間を費やしたい。
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Research Products
(10 results)