2022 Fiscal Year Research-status Report
World Literature and Japanese Literature
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20K00532
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中川 成美 立命館大学, 文学部, 授業担当講師 (70198034)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 世界文学 / 日本文学 / 情動理論 / プロレタリア文学 / 戦争と災禍 / 植民地問題 / ジェンダー・クイア理論 / 近代性(Modernity) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は1990年代後半から世界的に注目されるようになった「世界文学」理論を、日本近代文学から考察しようとするものである。近年、文学は従来の小説や詩、或いは評論といった領域のみに止まるものではなく、映像やまんが、あるいはヴァーチャルリアリティによる視覚媒体などに拡張して、文学そのものを定義することが難しくなっている。しかしながら、16世紀以降の近代に発達した文学の堆積をどのように位置づけていくかという問題を一方には抱えている。巷間にいわれるような「文学の衰退」や「文学の終焉」などという評価は、こうした堆積を看過していると言えよう。こうした問題系を日本近代文学に特化して考えようとするのが本研究の主たる目的である。 本年度はこうした観点から「災禍と文学」に着目して、昨年度から企画してきた国際シンポジウムを津田塾大学との共催で実施した。2022年12月17日(津田塾)、18日(立命館)で開催したラウンドテーブル『世界文学としての〈震災後文学〉』は、2022年初頭から実施に向けた打ち合わせを経て、対面(クローズ)にて行った(ただ、打ち合わせの会議はコロナ禍の影響でメール等にて実施)。オーガナイザーとして、アンヌ・バイヤール・サカイ(イナルコ)、木村朗子(津田塾)、私の三人が当たった。フランス、イギリス、日本の文学研究者を中心に組織したが、東日本大震災という未曽有の災禍から生まれた文学、そして「災禍」と「文学」という関連を模索して有意義な成果が得られた。 また私は2023年3月10日、11日に台湾政治大学にて開催された国際会議「疾病と文學─台日韓作家研討會」に招聘されて「コロナの中の日本文学ー世界文学の一環として」を発表した。日本からは星野智幸氏、中島京子氏が参加、韓国からは金息氏、孫洪奎氏、台湾からは紀大偉氏、呉佩珍氏らが参加、東アジアにおける災禍と文学について活発に討議された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度から引き続きコロナによる影響で対面による会議が実施できないこともあり、当初の計画より幾分か進捗が遅れている。ただ、次第に改善されて来たことも事実で、2022年末には国際シンポジウムの開催が実施され、また私自身コロナ以降初めて海外に渡航することもできた。前年度に予定したプロレタリア文学を中心とする世界文学概念の再検討という課題は、実際の研究会等の開催ができなかったが、コロナ禍という事態によって現出した共時性を考察しようとする国際シンポジウムや国際会議に参加することができた。特に台湾においては、日本による植民地統治時代の文学資料調査もできたことが収穫であった。本研究の骨子の一つである植民地問題については新たなステップを踏むことがかなった。 また世界文学を考える上で重要な社会主義文学については『日本近代文学』106巻(日本近代文学会、2022年5月)に「プロレタリア文学研究の現在性ー転向からTENKOへ」を発表、また『比較文学』65巻(日本比較文学会、2023年5月刊行予定)に「書評 中田幸子著『叛逆する精神 評伝藤森成吉』」を寄稿した。来年度は特にこの日本プロレタリア文学・文化運動を中心とする課題を取り上げていく予定である。2023年9月から11月まで開催される日本近代文学館の文学展示「プロレタリア文化運動の光芒」の企画委員として2022年7月から準備に入っている。近年における総合的な日本プロレタリア文学運動の展覧会であり、また世界文学との交差の中からこの文学・文化運動を考えようとするものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を始めるにあたって1)近代性 2)戦争と災害 3)植民地問題 4)ジェンダー・クイア理論の4つの柱を設定したが、これまで2と3については一定の進捗を見ている。これに加える形で世界文学としてのプロレタリア文学という項目を立てたいと思っている。次年度はこのプロレタリア文学について大きな展覧会を催すので、中心となるかと考えている。またプロレタリア文学の観点から植民地問題への本格的な取り組みが要求されるが、本年度台湾での資料収集ができたので、次年度は韓国を中心に資料調査を行う予定である。ジェンダー・クイア理論については進捗が遅れているが、LGBT文学を中心とする考察・検討を次年度には行いたいと考えている。コロナの緩和が進行しているので、当初計画していた海外の研究者との共同研究を進行させたい。海外での研究会等の開催も視野に入れた計画を次年度は目指したい。
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Causes of Carryover |
2020年度から続くコロナによる制限によって当初予定していた研究会、海外学会の参加、海外でのシンポジウムなどの実施が出来ず次年度使用額が生じた。次年度は幾分この状況も緩和されるものと考えている。世界文学の観点から各国の日本文学研究者との協力は必須であり、本研究の重要な要素である海外ネットワークとの連携を次年度には進めていきたい。勿論、コロナなどの不測の事態の進行を鑑みながらであるが。
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Research Products
(3 results)