2023 Fiscal Year Annual Research Report
音調中和過程の地域的多様性・特異性と新たな標準化の成立機序
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20K00536
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| Research Institution | University of Tsukuba |
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Principal Investigator |
那須 昭夫 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00294174)
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| Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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| Keywords | アクセント / 中和 / 式保存型形態素 / 共通語 / 地域差 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
令和５年度は、平板動詞に助詞「ナガラ」が付属した節の音調について『日本語話し言葉コーパス』所収の発話を分析し、起伏化を伴う音調中和の実態に次のような地域的差異が生じていることを明らかにした。首都圏での中和率を基準に見ると、無アクセント地域および西日本地域での中和率はいずれもこれを上回るが、関東周辺地域および京阪神地域では中和率が低値に留まる。しかし、首都圏および関東周辺地域では前接平板動詞の拍数が増すにつれて中和率も上昇するという共通の原理（語長感受性）が働いている。
研究期間全体を通じて得られた知見は次のとおりである。式保存型形態素の音調形成規則は現在、平板：起伏の対立を解消して中和に向かう変異の途上にある。中和の進度には形式間で遅速があるものの、どの形式に関しても語長感受性が観察される点が共通の特徴である。ただし、これは首都圏出身者の共通語に見られる特徴である点に注意を要する。そこで本研究ではコーパス所収発話のアクセントを分析し、各地域で運用される共通語での中和の実態について次の点を明らかにした。第一に、関東周辺地域の共通語は中和そのものに対しては保守的な性格を示すものの、中和が生じる際の原理は共通語のそれと同様の機序を共有している。第二に、無アクセント地域および西日本地域は中和率が高いのが特徴だが、語長感受性は観察されず、もっぱら中和に対して先取的な性格のみが際立っている。加えて第三に、本研究では京阪神地域出身者の運用する言語では共通語の文法とともに母方言の文法が参照される機会が多いことを、回帰モデルを通じた数理的観点から定量的に裏づけた。
以上の考察を通じて、本研究では中和に向かう音調変異の地域的多様性の記述という所期の目的を達成できた。本研究を通じて明らかにした知見は、多様性を伴った共通日本語の現状と将来の姿を理解する上で重要な意義がある。
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