2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00545
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
更科 慎一 山口大学, 大学院東アジア研究科, 准教授 (00379918)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高昌館訳語 / 来文 |
Outline of Annual Research Achievements |
一、本研究の主要な研究対象文献の一つである中国明代の外国語学習書『華夷訳語』の一種を成す『高昌館訳語』を取り上げて、語学書としての内容・形式的特質を検討するため、文例集である「来文」の成り立ちを、語彙集である「雑字」とも比較対象しつつ、語学的見地から詳細に検討した。その結果、『高昌館訳語』の編纂者は、文例集の作成に当たって、漢文を高昌語(概略、現在のウイグル語に当たる)に翻訳するのに、高昌語固有の文法構造をほぼ無視した逐語訳を行っていたことが確認された。また、雑字の部分において、現存する諸本には増補語彙が附せられているが、この増補部分に見える語彙が「来文」に用いられている率が、本編部分の語彙の「来文」での出現率を上回ることから、増補部分が、来文の作成のいわば副産物であることが明らかとなった。一般に『華夷訳語』の「来文」に見える外国語文例は漢文からの逐語訳であると言われているが、例えばタイ語の一種を記した『百夷館訳語』の来文は、『高昌館訳語』におけるほどには逐語訳にはなっていないことから、『華夷訳語』の取り扱う語種によって、翻訳の習熟度に違いがあり、状況が一律でない、という見通しが得られる。なおこの成果は、山口大学人文学部異文化交流研究施設発行の雑誌『異文化研究』vol.15(2021年3月)に発表した。 二、朝鮮時代の中国語会話書『老乞大』『朴通事』の諸本のうち、清代の『重刊老乞大における入声の実態を調査した。この両書は、明代の北京一帯に通用していた共通語音を、当時の朝鮮人が、ハングルを以てかなり忠実に写し取ったものが含まれ、明清時代の中国語音を研究する上で極めて重要である。また一部の本は、声調の表記を含んでいる。資料の整理まで完了したので、令和3年度には成果を発表したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた調査研究旅行(東京・中国北京)が、コロナウイルスの影響で一切できなかったため。但し、Web上に公開された文献を用いて、最低限の研究を実施することはできた。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナウイルスを巡る今後の状況如何によっては、今年度も海外渡航が全くできない恐れがある。このため、新規の文献資料の入手よりは入手済みの文献資料の整理に重点を置き、すでに整理したデータをも再活用することによって、研究の遂行に支障が出ないようにしていきたい。
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Causes of Carryover |
旅費に関しては、コロナウイルスの感染拡大に伴なって海外渡航が不可能になったために北京への出張ができなくなり、また東京への出張も差し控えため、令和2年度の支出額が0となった。 物品費に関しては、新刊書及び書籍を購入したが、購入予定であったが入手不能の古書があり、また大型本など高額な図書の購入もしなかったため、残が発生した。 その他については、複写費と通信費を組んでいたが、出張ができないなど当初の研究計画が変更を余儀なくされる中、令和2年度は使用実績がなかった。 令和3年度においても出張が国内に限られるなどの状況が予想されるが、年度末までに状況が好転すれば、当初の予定である北京出張を果たしたい。
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Research Products
(1 results)