2020 Fiscal Year Research-status Report
A comparative study on verbal affixes and auxiliary verbs as funtional heads in Japanese and Korean
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20K00555
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
青柳 宏 南山大学, 人文学部, 教授 (60212388)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 授受動詞 / 文法化 / 階層的動詞句仮説 / 日韓比較研究 / 使役形態素 / 受動形態素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日韓語の動詞接辞に注目することによって、Cinque (1999)以降さまざまな提案がある時制辞T以下の統語領域の階層性を追究することが目的である。Aoyagi (2010)以来の研究で、T以下に概ね次のような階層性があることが明らかになりつつある。 (1)[TP...[H-ApplP...[VoiceP EA [CauseP...[vP IA √R^v]^Cause]^Voice]^H-Appl]^T] たとえば、日本語に除外型(被害)受身のラレ、受益補助動詞の(テ)モラウが存在するのに対し、韓国語にはいずれも存在しないことは、上図でVoiceより構造上高い位置を占めるH-Applicativeが前者には存在し、後者には存在しないからだと説明できる。 令和2年度は、予てから懸案であった韓国語でも補助動詞の用法があるcwu-taと日本語のヤルの比較検討を行った。Cwu-ta、ヤルのいずれも単体の動詞には生産的に付加するが、使役動詞になると両言語には差が出る。(2)太郎は花子に飯を食わせてやった。(3)太郎は花子に漫画を読ませてやった。日本語のヤルは(2)の「食わせる」、(3)の「読ませる」のいずれにも接続可能だが、韓国語のcwu-taは(2)のタイプの動詞には接続可能だが、(3)のタイプの動詞には接続しない。両言語の与格句(花子に)に対する「主語性」のテストにより、日本語のヤルが上記(1)のH-Applの位置を占め得るのに対し、韓国語のcwu-taはVoiceより低い、(4)のH-Applの位置にしか現れえないことを明らかにした。これは、(3)の与格句が「読む」の外項としてVoicePに基底生成されるのに対し、(2)のそれにはL-Applに認可される所有権を移譲された所有者の読みが許されるからである。 (4)[TP...[VoiceP EA [H-ApplP...[vP [L-ApplP IA(dat) Theme] √R^v]^H-Appl]^Voi]^T]
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、全世界的な新型コロナウイルス感染症拡大のため、国内外の学会は中止またはオンライン開催になったが、研究の進捗にはさほど大きな支障はなかった。 国際会議、国内の研究会でそれぞれ1度ずつ研究発表を行い、"How High Is High Applicative in Japanese and Korean"という題名で論文を執筆し、Japanese/Korean Linguistics, Vol. 28に掲載される予定であり、研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は秋学期に研究休暇を取れるため、これまでより集中して研究に取り組めるものと期待している。 これまでの研究(Aoyagi 2019, 2021)で韓国語でなぜ7つの使役形態素{i, hi, li, ki, wu, kwu, chwu}のうち母音が/i/の前4者のみが受動形態素としても使われるのかという問題に対し、使役素が潜在的に現れうる3箇所のうち、 (1)[Cause1P...[VoiceP EA [Cause2P...[vP...IA √R^v/Cause3]^Cause2]^Voice]^Cause1] それぞれの語幹述語に対する選択制限により、母音が/i/のものは(1)のCause1~3のすべての位置に現れうるのに対し、母音が/u/のものは外項(EA)を取るような述語には接続しない、すなわち、(1)のCause1の位置には現れ得ないことが分かった。さらに、使役素Cause1もVoiceも外項を導入しないことがあるという想定のもと、構造的縮約(bundling)が適用し、(1)から(2)の構造が派生すると主張した(Aoyagi 2021)。 (2)[Cause-VoiceP adjunct-dat [vP IA √R^v]^Voice-Cause] ここで内項(IA)がTの指定部に上昇したものがいわゆる受身文である。しかし、(2)で起こった構造的縮約はさらに歴史的変化の観点、ソウル標準語と他方言との比較の観点から検討する必要がある。
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Causes of Carryover |
令和2年度に出張を予定していた国内外の学会・研究集会は、新型コロナウイルス感染症拡大のため、すべて中止かオンライン開催になってしまい、出張費を支出する必要がなくなった。 令和3年度は秋学期の研究休暇中に米国ハワイ大学マノア校言語学科に客員研究員として受け入れてもらう予定である。そのための旅費・滞在費として令和2年度分と合わせて使用する予定である。
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