2020 Fiscal Year Research-status Report
ウズベキスタンにおけるロシア語の現地語化についての研究
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20K00563
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柳田 賢二 東北大学, 東北アジア研究センター, 准教授 (90241562)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ウズベキスタン / 現地調査断念 / ロシア語 |
Outline of Annual Research Achievements |
前科研費による2019年度までのウズベキスタン現地調査時までに高齢の現地ロシア人3世のインフォーマント1名から、「戦中戦後のタシケントにおいて、革命前からの『ヨーロッパ人地区』だけではヨーロッパ部からの膨大な数の戦争避難民を受け入れることができなくなり、ヨーロッパ系避難民がウズベク人の住居に分宿するようになった。それまでタシケントのヨーロッパ系住民とウズベク人住民の間には交際がなかったが、このことによりウズベク人がロシア語を話すようになってロシア人とウズベク人の交際が始まり、ウズベク人のロシア語がロシア人のロシア語にも影響を与えるようになった」との重要な証言を得ていた。 本科研費による2020年度タシケント調査では上記知見を基にして、戦中戦後にどこに住んでおり、どんな人を避難民として受け入れたかについてウズベク人ほかの現地民族の人々に尋ね、この証言がどの程度まで正しいかを確認することとともに、ロシア人と現地民族の両者におけるロシア語の変遷を世代別に細かく観察する予定であった。ところが、新型コロナウイルス感染症パンデミックのためウズベキスタンへの渡航が全く不可能となり、現地研究を断念するほかなくなった。2020年度の本科研費の執行額は0円であるが、その理由は、本科研費の主たる用途として想定していたのはウズベキスタン調査における旅費とインファーマントおよびコーディネーターへの謝金なので、目的外使用となる可能性のあるような物品購入を一切避けたからである。 現地調査を断念したので、校費で購入したロシア語音韻論や他言語にかかわる言語接触や戦時のソ連に関する書籍を読み、次年度以降の現地調査における一般人を対象とした聞き取り調査をより効率的とするよう基盤的知識を強化することに努めた。現在のところ、本科研費は、研究期間を1年間延長して計画通り3年間の現地調査を行う意向である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
上述の通り、本科研費はウズベキスタンにおける現地調査を3年間毎年行うために応募し、採択されたものである。新型コロナウイルス禍により現地調査が不可能となったため、「戦中戦後のウズベキスタンでのソ連ヨーロッパ部からの避難民受入と避難民の分宿の実態について民族を問わず当時を知る人々に尋ねる」ことを内容とする、当初考えていた調査が完全に不可能となった。 このため、2020年度は、校費で買った図書を読むことにより戦中戦後のソ連に関する知識を増やすこと以外にできることがなかった。書物で得た知識から、戦争による住宅不足によりアパートの1区画に複数家族が同居することを余儀なくされたソ連の戦後が、中央アジアでは、ロシア語系住民と現地民族の住民との接触と交流を強く促し、現地民族のロシア語習得の動機とロシア語の現地語化の契機となったことの可能性について考えるようになった。しかしウズベキスタンの現地住民にこのことについて尋ねて確認することはできず、言語学分野での収穫はなかった。したがって、「(4)遅れている」と自己評価するほかない。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス禍とは無関係に、戦争によるソ連全体の住宅不足によりアパートの1区画に複数家族が同居した時代を記憶する高齢者を対象とする聞き取り調査は、年々対象者が死去して減っていくことが避けられず、年ごとに困難の度合いが増して行くことが避けられない。しかし、上述した通り、本科研費は、あくまでもウズベキスタン現地調査における旅費とインファーマントおよびコーディネーターへの謝金を支弁するために応募し、採択を得たものである。それゆえ、現在のところ、本科研費は研究期間を1年間延長し、2021~2023年度に当初計画通りウズベキスタンでの戦中戦後における民族接触と言語接触に関するインタビュー調査を中心とする3年間の現地調査を行う意向である。
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Causes of Carryover |
本科研費の主たる用途として想定していたのはウズベキスタン調査における旅費とインファーマントおよびコーディネーターへの謝金であるが、2020年度本科研費の交付決定後に新型コロナウイルス感染症パンデミックのため現地研究を断念することとなった。また、目的外使用となる可能性のあるような物品購入を一切避けたため、2020年度の本科研費の執行額は0円となった。このため直接経費100万円の全額を次年度使用額とすることになった。しかしこれは、当初計画では2020~2022年度に行うこととしていた現地調査を、科研費の研究期間を1年間延長することにより、1年だけ後にずらして2021~2023年度に行うということに過ぎず、本科研費全体の使途についての変更はない。
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